事業譲渡とは何か

事業譲渡とは、会社が営んでいる事業の全部または一部を、他の会社や個人へ売り渡すことをいいます。ここでいう「事業」とは、店舗や設備といった目に見えるものだけでなく、取引先との関係や従業員、ノウハウ、営業上の信用など、事業を成り立たせている要素のまとまりを指します。

大切なのは、売買の対象が「会社」ではなく「事業」だという点です。会社という器はそのまま売り手に残り、その中で営んでいた事業だけが買い手に移ります。譲り渡す範囲は当事者の合意で決められるため、複数の事業のうち一つだけを譲るといった柔軟な対応もできます。

会社を売る株式譲渡との違い

M&Aでよく比較されるのが株式譲渡です。株式譲渡は、会社の株式を買い手に売ることで、会社の所有権そのものを移す方法です。会社が持つ資産も負債も契約も、原則としてまとめて買い手に引き継がれます。

これに対して事業譲渡は、譲る対象を一つひとつ選んで移していきます。この設備は譲る、この契約は残す、といった具合に、範囲を切り分けられるのが特徴です。そのため、必要な部分だけを引き継ぎたい買い手や、一部の事業だけを手放したい売り手に向いています。

一方で、対象を個別に移す分だけ手続きは細かくなります。どちらが優れているというものではなく、それぞれの事情に応じて選ぶことが大切です。

SSの事業譲渡で移すもの

ガソリンスタンドの事業譲渡では、店舗の運営に必要なさまざまな要素を引き継ぎます。具体的には次のようなものが対象になります。

  • 給油設備や地下タンクなどの設備
  • 店舗の土地・建物(賃借の場合は賃貸借契約)
  • 燃料の仕入れに関する取引関係
  • 洗車や車検、カーケアなどの付帯サービス
  • 従業員の雇用や、常連客とのつながり

これらのうち何を譲り、何を残すかは、売り手と買い手の話し合いで決めます。たとえば併設する別事業は手元に残し、SS部分だけを譲るといった形も取れます。SSは設備や立地が事業の要になるため、何を引き継ぐかの取り決めがとりわけ重要になります。

許認可は引き継がれない

事業譲渡でとくに注意したいのが、許認可の扱いです。ガソリンスタンドの運営には、危険物を扱うための許可など、いくつかの行政上の手続きが欠かせません。事業譲渡では、これらの許認可が自動的に買い手へ移るわけではないのが原則です。

そのため買い手は、事業を引き継ぐにあたって、自らの名義で必要な許可を取り直したり、届け出を行ったりする必要があります。この手続きには一定の時間がかかることもあるため、引き継ぎの日程を組むうえで早めに確認しておくことが欠かせません。

この点は、会社ごと引き継ぐ株式譲渡とは大きく異なります。許認可を新たに整える段取りを見落とすと、営業の再開が遅れてしまうこともあるため、専門家とともに計画的に進めることが求められます。

従業員や契約はどうなるか

事業譲渡では、従業員の雇用や取引先との契約も、当然にそのまま移るわけではありません。従業員については、買い手が改めて雇用する形を取り、本人の同意を得ながら移っていくのが一般的です。長年勤めてきた従業員が安心して働き続けられるよう、処遇の取り決めを丁寧に行うことが大切です。

取引先や賃貸人との契約についても、相手方の了解を得ながら引き継ぐ手続きが必要になります。相手の同意なく一方的に移せるものではないため、関係者への説明と合意形成が欠かせません。この一つひとつの手続きが、円滑な引き継ぎの土台になります。

誰に、いつ、何を伝えるかは、信頼関係に直結する大切な判断です。とくに従業員には、不安を与えないよう配慮しながら、丁寧に説明する順序を考えることが求められます。こうした細やかな段取りを一つずつ積み重ねていくことが、事業譲渡を円滑に進める鍵になります。

事業譲渡が選ばれる場面

事業譲渡は、次のような場面で選ばれることがあります。買い手にとっては、引き継ぐ範囲を絞れることが安心につながるためです。

  • 買い手が特定の店舗や設備だけを引き継ぎたいとき
  • 売り手が複数事業のうち一部だけを手放したいとき
  • 会社に関わる事情を切り離して引き継ぎたいとき

SSの承継でも、買い手が「この立地の店舗を引き継ぎたい」と考える場合などに、事業譲渡が候補になります。会社全体ではなく事業に着目して引き継げる点が、この方法の持ち味です。

よくある誤解

事業譲渡には、いくつか誤解されやすい点があります。あらかじめ知っておくことで、思い違いによる不安を避けられます。

まず「事業譲渡なら手続きが簡単だ」という思い込みです。譲る対象を個別に移していくため、実際にはむしろ細かな手続きが必要になる場面もあります。範囲を自由に決められる分、取り決めることも多くなります。

次に「許認可もそのまま引き継げる」という誤解です。前述のとおり、SSの運営に必要な許可は買い手が改めて整えるのが原則です。ここを見落とすと、引き継ぎの計画が狂ってしまいます。事前に確認し、段取りを立てておくことが肝心です。

実務での進め方

事業譲渡の実務は、おおまかに次のような流れで進みます。全体像を知っておくと、今どの段階にいるのかを見失わずに済みます。

  1. 譲る事業の範囲を整理し、方針を固める
  2. 相手を探し、秘密保持のうえで条件を交渉する
  3. 基本的な合意を経て、買い手が実態を調査する
  4. 最終的な契約で、譲る対象と条件を確定する
  5. 許認可の取り直しや従業員・契約の引き継ぎを進める

各段階では、譲る範囲の線引きや許認可の段取りなど、SSならではの論点が出てきます。これらを一つひとつ確認しながら進めることが、後々のトラブルを防ぎます。何を残し何を譲るかは、売り手の希望と買い手の事情をすり合わせて決めていきます。

専門家に相談する意味

事業譲渡は、譲る範囲の決め方や許認可の扱い、従業員や契約の引き継ぎなど、押さえるべき点が多く、初めての経営者が一人で進めるのは負担が大きいものです。とりわけガソリンスタンドは業界特有の論点があるため、事情に詳しい専門家の伴走があると安心です。

私たち株式会社フォーバル 自動車アフターマーケットチームは、ガソリンスタンド(SS)業界に特化してM&Aを支援しています。相談無料・完全成功報酬・秘密厳守・全国対応で、事業譲渡が自社に合うのかという入り口の相談から、引き継ぎの完了まで伴走します。

まとめ

事業譲渡とは、会社そのものではなく、事業を単位として引き継ぐM&Aの方法です。譲る範囲を柔軟に決められる一方で、許認可の取り直しや従業員・契約の引き継ぎなど、個別の手続きを丁寧に進める必要があります。とくにSSでは、設備や立地、許認可といった業界特有の論点が絡みます。

株式譲渡との違いを理解したうえで、自社の事情に合った方法を選ぶことが大切です。判断に迷うときは、早めに業界に詳しい専門家へ相談し、見通しを持って進めていきましょう。