売却対価の「受け取り方」という論点

M&Aで事業を譲渡すると、その対価を受け取ることになります。多くの方は「総額でいくらになるか」に意識が向きますが、実は同じ総額でも、それをどのような形で、いつ受け取るかによって、手元に残る金額や税務の扱いが変わってきます。これが「受け取り方の設計」という論点です。

受け取り方には、大きく分けて一括で受け取る方法、成果に応じて後から追加で受け取るアーンアウト、そして役員退職金として受け取る方法があります。これらは二者択一ではなく、組み合わせて用いられることも少なくありません。どの形が自分に合うかは、事業の状況や引退後の関わり方、家族の希望によって異なります。

一括で受け取る場合の考え方

もっとも分かりやすいのが、譲渡の対価をまとめて受け取る方法です。成約の時点で対価が確定し、受け取りも早い段階で完了するため、その後の不確実性が小さいという安心感があります。引退後の生活資金を早く手当てしたい方や、成約後は事業から完全に離れたい方に向いた形といえます。

一方で、一括で受け取ると、その分がまとまって一時に手元へ入ることになります。手取りや税務の扱いを、受け取り方全体のなかで見ておくことが大切です。総額の大きさだけでなく、受け取った後にどれだけ手元に残るかという視点を持ちましょう。

また、まとまった資金を一度に受け取ると、その後の運用や管理をどうするかという新たな課題も生まれます。引退後の暮らしを見据え、受け取った資金をどのように使い、守っていくのかを、家族とも相談しながら考えておくと安心です。受け取り方を決める段階から、その先の資金計画までを視野に入れておくことが望まれます。

アーンアウトという受け取り方

アーンアウトは、成約時に対価の一部を受け取り、その後の一定期間の業績など、あらかじめ定めた条件の達成度に応じて、追加の対価を後から受け取る仕組みです。売り手と買い手で将来の見通しに開きがあるとき、その差を橋渡しする方法として用いられます。

この形では、事業が引き継ぎ後も順調に伸びれば、売り手が追加の対価を受け取れる可能性があります。反面、条件を満たせなければ追加分が得られないこともあり、受け取り額が確定するまで時間がかかります。前経営者が一定期間関与し、円滑な引き継ぎに協力することとセットで設計されるのが一般的です。詳しくは関連記事もご参照ください。

退職金という受け取り方

株式譲渡などで会社を譲渡する際、オーナー経営者がそれまでの功労に対して役員退職金を受け取る形を組み合わせることがあります。長年会社に尽くしてきた対価を、退職金という形で受け取るという考え方です。譲渡対価と退職金をどう配分するかは、交渉と設計の対象になります。

退職金として受け取る部分と、株式の譲渡対価として受け取る部分とでは、税務上の扱いが異なるのが一般的です。そのため、総額が同じでも配分の仕方によって手取りの見え方が変わることがあります。ただし、扱いは個々の事情や制度によって異なるため、必ず税理士など専門家に確認することが欠かせません。

三つを組み合わせるという発想

ここまで見てきた一括・アーンアウト・退職金は、どれか一つを選ぶというより、組み合わせて全体を設計するものと捉えると分かりやすくなります。たとえば、成約時にまとまった対価を一括で受け取りつつ、一部を退職金の形にし、さらに引き継ぎへの協力に応じたアーンアウトを加えるといった具合です。

組み合わせの狙いは、売り手の安心と買い手の納得の両立にあります。売り手は生活資金の確保や引退後の見通しを、買い手は円滑な引き継ぎや将来の成果を重視します。両者の希望をすり合わせながら、無理のない受け取り方を組み立てていくことになります。

どの組み合わせが適しているかは、事業をすぐに手放したいのか、しばらく関与しながら見届けたいのかといった、経営者自身の意向にも大きく左右されます。同じ会社でも、経営者の考え方が違えば、ふさわしい受け取り方は変わってきます。まずは自分がどうしたいのかを整理することが、設計の出発点になります。

手取りの視点で考える

受け取り方を考えるうえで欠かせないのが、手取りの視点です。表面的な総額が大きくても、受け取り方によっては手元に残る金額の感覚が変わってきます。逆に、総額が同じでも、配分やタイミングを工夫することで、より納得のいく形に整えられることもあります。

手取りを左右する要素は税務だけではありません。アーンアウトのように受け取りが将来にかかる場合は、その分が確実に入ってくるかどうかという不確実性も考慮する必要があります。目先の金額と、実際に手元に残る金額、そして受け取りの確実性を、総合的に見比べる姿勢が大切です。

あわせて、受け取ったお金をいつ必要とするのかも考えておきたい点です。近い将来に大きな支出の予定がある場合と、当面は使う予定がない場合とでは、望ましい受け取り方が異なることもあります。目先の金額だけでなく、時間の流れを意識することが、納得のいく判断につながります。

税務の視点で考える(一般論)

受け取り方によって税務上の扱いが変わりうる、という点は繰り返しお伝えしてきたとおりです。株式の譲渡対価、退職金、アーンアウトによる追加対価では、それぞれ課税の考え方が異なるのが一般的で、受け取るタイミングによっても扱いが変わることがあります。

ただし、具体的にどう扱われるかは、会社の形態、株式の保有状況、契約の組み方など、個々の事情によって大きく異なります。ここで安易に一般化して判断するのは危険です。税務は必ず税理士などの専門家に相談し、自分のケースに即した確認を受けたうえで方針を決めるようにしましょう。本記事はあくまで考え方の整理にとどめ、個別の判断は専門家に委ねることをおすすめします。

ガソリンスタンドならではの留意点

ガソリンスタンドの譲渡では、地下タンクや設備、土地に関わる事情、系列や特約店契約の扱いなど、業界特有の要素が価格や条件に影響します。こうした要素は、受け取り方の設計にも間接的に関わってきます。たとえば、引き継ぎ後の運営が軌道に乗るまでに時間がかかると見込まれる場合、アーンアウトの条件や期間の考え方にも影響が及びます。

業界の実情を踏まえずに受け取り方だけを一般論で決めてしまうと、後で条件のかみ合わない部分が出てくることがあります。だからこそ、業界に詳しい専門家とともに、事業の実態に合わせて受け取り方を組み立てることが望まれます。

加えて、土地や建物を会社が所有しているのか、賃借しているのかによっても、譲渡の組み立て方は変わってきます。所有する不動産の扱いは対価の水準や受け取り方に影響することがあり、事前に整理しておきたい論点です。こうした点も含めて、事業の全体像を踏まえた設計が求められます。

専門家と一緒に設計する重要性

受け取り方の設計は、M&Aの経験が豊富でも一人で最適解を出すのが難しい領域です。手取りと税務、将来の不確実性、引き継ぎへの関与といった複数の要素が絡み合うため、M&Aアドバイザーと税理士などが連携して検討することが望まれます。売り手の希望を出発点に、実現可能な形へ落とし込んでいく作業です。

私たち株式会社フォーバル 自動車アフターマーケットチームは、ガソリンスタンド(SS)業界に特化してM&Aを支援しています。相談無料・完全成功報酬・秘密厳守・全国対応で、受け取り方をどう設計するかという段階から、専門家と連携しながら伴走します。税務の個別判断は提携する専門家とともに確認し、納得のいく形を一緒に考えます。

まとめ

売却対価の受け取り方には、一括・アーンアウト・退職金という選択肢があり、これらを組み合わせて全体を設計するのが実務的な発想です。同じ総額でも、受け取り方によって手取りや税務の見え方、受け取りの確実性が変わってきます。

大切なのは、目先の総額だけでなく、実際に手元に残る形と将来の見通しを総合的に考えることです。税務は一般論で判断せず、必ず専門家に相談しましょう。受け取り方の設計は、業界に詳しい専門家とともに、じっくり組み立てていくことをおすすめします。