アーンアウトとは何か

アーンアウトとは、M&Aの対価の一部を、成約時にまとめて支払うのではなく、成約後の一定期間の業績など、あらかじめ決めた条件に応じて追加で支払う仕組みのことをいいます。つまり、対価を「成約時の分」と「後から条件に応じて支払う分」に分ける考え方です。

この仕組みが使われるのは、売り手と買い手のあいだで、事業の将来の見通しに差があるときです。売り手は「これからも伸びる」と考え、買い手は「様子を見たい」と慎重になる。その差を、成約後の実際の結果に応じて調整することで、両者が納得できる着地を探るのがアーンアウトの狙いです。

なぜアーンアウトが使われるのか

アーンアウトが使われる背景には、価格を巡る売り手と買い手の見方の違いがあります。売り手は自社の将来に自信を持っていることが多く、その分を価格に反映してほしいと考えます。一方で買い手は、引き継いだ後に本当にその見通しどおりになるのか、慎重に見極めたいと考えます。

この差が大きいと、交渉が行き詰まってしまうことがあります。そこで、まず成約時に一定の対価を支払い、残りは成約後の結果を見てから追加で支払う、という形にすることで、双方が一歩ずつ歩み寄れます。売り手は将来の成果を対価に反映させる機会を得られ、買い手は先々の不確かさに備えられる。この歩み寄りの工夫が、アーンアウトの持ち味です。

SSの場合の論点

ガソリンスタンドでアーンアウトを考える場合、業界ならではの論点が出てきます。SSの業績は、燃料の需要や周辺の状況、季節など、さまざまな要素に左右されるためです。

まず、何を成果の目安にするかです。アーンアウトでは、成約後の業績など具体的な指標に沿って追加の支払いを決めますが、SSの場合、その指標が本当に事業の実力を映すものかを慎重に見る必要があります。外部の状況によって上下しやすい部分を目安にすると、努力とは関係のないところで結果が変わってしまいかねません。

次に、引き継ぎ後の運営方針です。買い手が体制を見直せば、業績にも影響します。売り手が一定期間関わる場合には、その役割や、どこまで運営に関与できるのかを、あらかじめはっきりさせておくことが大切です。SSは現場の運営が業績に直結するため、この点の取り決めがとりわけ重要になります。

よくある誤解

アーンアウトには、いくつか誤解されやすい点があります。あらかじめ知っておくと、思い違いを避けられます。

一つは「後から支払われる分は必ず受け取れる」という思い込みです。アーンアウトは、あらかじめ決めた条件が満たされてはじめて支払われるものです。条件に届かなければ、その分は受け取れないこともあります。将来の成果は不確かなものだと理解しておく必要があります。

もう一つは「仕組みを決めておけば後は安心」という誤解です。実際には、何を目安にするか、どの期間で見るか、どのように確認するかといった細かな取り決めが、後々の食い違いを左右します。あいまいなまま進めると、成約後にお互いの認識がずれてしまうこともあります。細部まで丁寧に取り決めることが欠かせません。

最終契約での取り決め

アーンアウトを取り入れる場合、その内容は最終契約でしっかりと定めます。ここでの取り決めが、成約後のやり取りの土台になります。とくに次のような点を明確にしておくことが大切です。

  • 何を成果の目安とするのか
  • どのくらいの期間で結果を見るのか
  • 結果をどのように確認し合うのか
  • 売り手が関わる場合の役割はどこまでか
  • 運営方針の変更をどう扱うのか

これらがあいまいだと、成約後に「思っていたのと違う」という食い違いが生じやすくなります。将来のことを取り決める分、想定される場面をできるだけ具体的に思い描いて、丁寧に言葉にしておくことが求められます。契約の内容は専門的で多岐にわたるため、専門家の確認を得ながら慎重に進めることが欠かせません。

実務での流れ

アーンアウトを取り入れる場合、実務ではおおまかに次のような流れで進みます。全体像を知っておくと、交渉の見通しが立てやすくなります。

  1. 価格を巡る売り手と買い手の見方の差を確認する
  2. アーンアウトが両者にとって適した形かを検討する
  3. 成果の目安や期間、確認の方法を話し合う
  4. 取り決めた内容を最終契約に落とし込む
  5. 成約後、決めた条件に沿って追加の支払いを行う

この過程では、将来の見通しをどう扱うかという難しい話し合いが含まれます。感情的にならず、互いの立場を理解しながら、現実的な着地点を探る姿勢が大切です。無理に取り入れる必要はなく、自社の事情に合うかどうかを冷静に見極めることが肝心です。

また、成約後に支払いを確認し合う場面まで見据えて、どのような資料でどう確かめるのかを決めておくと、後々のやり取りが円滑になります。将来のことを取り決める仕組みだからこそ、想定される場面を一つずつ思い描き、あいまいさを残さないことが、双方の安心につながります。

実務として見落とされやすいのが、条件を満たしたかどうかを判定する時期です。事業年度の終わりに判定するのか、一定の期間が経過した時点なのか。そして、その判定にどれくらいの時間がかかるのか。

判定が確定するまでは、受け取れるかどうかが分かりません。この期間が長いほど、生活の計画は立てにくくなります。判定の時期と、支払いまでの期間を、契約のなかで確かめておいてください。

アーンアウトが向く場合・向かない場合

アーンアウトは、どんなM&Aにも当てはまる万能の仕組みではありません。価格を巡る見方の差が大きく、その差を将来の結果で埋めることに双方が納得できる場合には、有効な選択肢になります。

一方で、成約後にきっぱりと事業を手放したい売り手にとっては、追加の支払いを待つあいだ結果を気にし続けることが負担になることもあります。また、成果の目安を明確に定めにくい場合には、かえって食い違いの種になりかねません。自社がどちらに近いのかを見極めたうえで、取り入れるかどうかを判断することが大切です。

専門家に相談する意味

アーンアウトは、将来の不確かなことを取り決める仕組みであり、その設計には慎重さが求められます。目安の選び方や期間の決め方、確認の方法など、押さえるべき点が多く、当事者だけで進めるのは負担が大きいものです。とりわけガソリンスタンドは業界特有の論点があるため、事情に詳しい専門家の伴走があると安心です。

私たち株式会社フォーバル 自動車アフターマーケットチームは、ガソリンスタンド(SS)業界に特化してM&Aを支援しています。相談無料・完全成功報酬・秘密厳守・全国対応で、価格の話し合いから契約の取り決め、成約後の対応まで伴走します。条件の組み立てに迷う段階から、お気軽にご相談ください。

達成を左右するのは、自分ではなく相手の経営

後から支払われる部分を設ける取り決めで、売り手が見落としやすいのが、この点です。条件の達成を左右するのは、譲った後の経営です。そして、その経営を行うのは、自分ではなく買い手です。

買い手が方針を変えれば、数字は変わります。設備に投資すれば費用が増え、人を増やせば人件費が増えます。いずれも経営として正当な判断ですが、結果として条件を満たさなくなることがあります。悪意がなくても、こうしたことは起こります。

ですから、この形の取り決めを受け入れるときは、達成できない可能性を現実的に見ておいてください。そのうえで、確実に受け取れる部分だけで納得できるかを考える。後から入る部分は、入れば良かった、くらいに構えておくのが安全です。

何を基準にするかで、争いの起きやすさが変わる

条件の基準として何を使うかは、実務上とても重要です。基準が複雑になるほど、計算の仕方をめぐって食い違いが生じます。

費用の配分を含む指標を使うと、どの費用をどう扱うかで結果が変わります。買い手が本部の費用を配分すれば、数字は下がります。それが妥当な配分かどうかを、後から争うのは簡単ではありません。

一方、給油の数量や、特定の商材の販売本数のように、数え方が単純な基準であれば、争いは起きにくくなります。金額としての精度は落ちますが、確認しやすいという利点があります。どの基準が自社の場合に適切かは、事業の内容と相手との関係によって変わりますので、専門家と一緒に検討してください。

数字を確かめる方法を、決めておく

条件を満たしたかどうかを判断するには、譲渡後の数字を見る必要があります。しかし、そのときには、すでに事業は相手のものです。こちらから帳簿を見せてもらえる立場にあるとは限りません。

ですから、どういう資料を、いつ、どういう形で受け取れるのかを、契約のなかで決めておいてください。定期的に報告を受ける取り決めがあるか、必要に応じて確認できる仕組みがあるか。ここが定まっていないと、達成したかどうかを自分で確かめられません。

また、食い違いが生じた場合にどう解決するのかも、決めておく価値があります。第三者に判断してもらう仕組みを設けることもあります。何が可能かは契約の組み方によりますので、署名の前に専門家に確認してください。

関わり続けることを求められる場合がある

後払いの取り決めがあると、その期間中は経営に関わってほしいと求められることがあります。数字に責任を持ってもらうという考え方です。

ここで注意したいのは、関わることと、決められることは違うという点です。関与は求められるが、経営の判断は買い手が行う。それでいて、数字が達成できなければ受け取れない。この組み合わせは、売り手にとって重い立場になります。

ですから、関与を求められるのであれば、どの範囲を自分の判断で決められるのかを、あわせて取り決めてください。責任だけを負い、権限がない状態は避けるべきです。この点は、必ず契約に反映させてください。

受け取れなかったときに、後悔しない条件かどうか

この形の取り決めは、双方の見立てが食い違うときに使われます。売り手はこの事業がもっと伸びると考え、買い手は慎重に見る。その差を埋める方法として、結果に応じて後から支払うという形が選ばれます。

合理的な仕組みではありますが、売り手にとっては、確実性を手放していることになります。提示された総額は大きく見えても、確実に受け取れる部分は小さいかもしれません。

ですから、判断のときには、確実な部分だけを取り出して比べてください。後払いの部分をすべて外して考えたときに、その条件で納得できるか。納得できないのであれば、確実な部分を増やす交渉をするか、別の相手を検討するかです。総額の大きさに引かれて決めると、数年後に後悔することになりかねません。税務上の扱いも、受け取る時期によって変わることがありますので、税理士にも確認しておいてください。

まとめ

アーンアウトとは、M&Aの対価の一部を、成約後の業績など決めた条件に応じて追加で支払う仕組みです。売り手と買い手の将来の見方の差を埋める工夫として使われますが、後から支払われる分は条件次第であり、細かな取り決めが食い違いを左右します。とくにSSでは、成果の目安の選び方や運営方針の扱いが論点になります。

自社の事情に合うかを冷静に見極め、最終契約で内容を丁寧に定めることが大切です。判断に迷うときは、業界に詳しい専門家の伴走を得ながら、落ち着いて進めていきましょう。