許可は付いてこない

事業譲渡では、譲るのは「事業」であって「会社」ではありません。売り手の法人はそのまま残ります。

許可を受けているのは売り手の法人です。したがって買い手は自分の法人で、あらためて許可を取得する必要があります。解体業許可、破砕業許可、引取業・フロン類回収業の登録、産業廃棄物処理業の許可、いずれも同じです。

ここが株式譲渡との決定的な違いです。

審査に要する時間をどう見るか

解体業許可の審査では、施設の基準を満たしているかが確認されます。書類の作成、事前相談、申請、審査、現地確認という流れをたどります。

要する期間は自治体によって幅がありますが、数か月単位で見ておく必要があります。書類の不備や補正が入れば、さらに延びます。

問題は、この間ヤードをどうするかです。止めれば、取引先は他へ流れます。従業員は不安になります。せっかく引き継いだ事業の中身が、引き渡しの前後で目減りしてしまいます。

操業を止めないための工夫

実務では、次のような形が取られます。

① 許可が下りてから引き渡す

買い手が先に許可を取得し、それを確認してから資産の引き渡しと代金の支払いを行う形です。最も安全ですが、買い手は許可が取れるかどうか分からない段階で準備を進めることになります。

この形を取る場合、契約書に「許可の取得を条件とする」旨を入れておくのが通常です。取得できなかった場合に契約が白紙に戻る仕組みにしておかないと、買い手が過大なリスクを負います。

② 移行期間は売り手が操業を続ける

資産は先に移しつつ、許可が下りるまでは売り手の名義で操業を続ける形です。ただし実態と名義が乖離する運用は行政から問題視されかねず、事前に窓口へ相談したうえで進めるべき領域です。

③ そもそも株式譲渡に切り替える

「事業譲渡でなければならない理由」を確認すると、実は株式譲渡でも目的が達成できることがあります。売り手が他の事業を残したいというだけであれば、その事業を先に切り出しておくという順序も考えられます。

契約は一つずつ結び直す

株式譲渡では自動的に引き継がれるものが、事業譲渡では個別の手続きになります。

  • 土地の賃貸借:地主の承諾が必要です。承諾料を求められることもあります。断られれば、ヤードそのものが引き継げません。
  • 重機・設備のリース:リース会社の承諾が要ります。残債の扱いも交渉事項です。
  • 従業員の雇用:買い手との間で新たに雇用契約を結び直します。全員が同意するとは限りません。
  • 取引先との契約:仕入先・出荷先それぞれと結び直します。この機会に条件を見直したいと言われることもあります。
  • 処理委託契約:廃棄物の処理を委託している先とも、あらためて契約が必要です。

点数が多く、時間がかかります。どの契約が引き継ぎに承諾を要するのかを、早い段階で一覧にしておくことが、後の遅れを防ぎます。

売り手側に残る仕事

事業を譲った後も、売り手の法人は残ります。そこで次の整理が必要になります。

  • 許可の廃止届の提出
  • ヤードに残った車両・部品・スクラップの処理
  • 受け取った代金への課税(法人に入るため、個人が受け取るには別途手当てが必要です)
  • 法人を清算するかどうかの判断

特に「引き渡さなかったもの」の処理費用は見落とされがちです。売れない在庫や老朽設備が残ると、それを片付けるのは売り手の負担になります。

それでも事業譲渡を選ぶ場面

手間はかかりますが、次のような場合には合理的な選択になります。

  • 過去の債務や係争を引き継ぎたくないと買い手が強く求めている
  • 複数の事業のうち、解体部門だけを譲りたい
  • 株主が分散していて、全株式の取得が現実的でない
  • 売り手が法人を残して別の事業を続けたい

どちらが良いかではなく、何を優先するかで決まります。許可の取り直しに要する時間を織り込んだうえで、比較することが大切です。

在庫をどう扱うか

事業譲渡では、引き渡す資産を一つずつ決めます。部品在庫とスクラップの扱いは、必ず交渉の対象になります。

買い手は、売れる在庫だけを引き取りたいと考えます。売り手は、全部まとめて引き取ってほしいと考えます。ここが折り合わないと、残った在庫の処分費が売り手に丸ごと乗ります

実務では、次のような整理が行われます。

  • 直近で動きのある在庫は簿価に近い金額で引き渡す
  • 滞留している在庫は大幅に減額するか、対象から外す
  • スクラップは引き渡し日の相場を基準に精算する

いずれにせよ、在庫の実態が把握できていなければ交渉になりません。棚卸を済ませ、滞留期間が分かる状態にしておくことが前提です。

売り手側の税負担

見落とされやすい点です。事業譲渡の代金は法人に入ります。株式譲渡のように、経営者個人の手元に直接入るわけではありません。

個人が資金を受け取るには、役員退職金として支給する、法人を清算して残余財産を分配する、といった手続きを重ねることになります。それぞれに課税が生じます。

また、譲渡する資産の内容によっては消費税の課税対象になるものがあります。土地と建物、機械、在庫では扱いが異なります。手取り額は、譲渡価格から想像するより小さくなるのが通常です。

「いくらで売れるか」ではなく「最終的にいくら残るか」で比較してください。株式譲渡と事業譲渡では、同じ譲渡価格でも手元に残る金額が変わります。

※ 許可の審査に要する期間や必要書類は自治体によって異なります。移行期間の操業方法については、必ず事前に所管の窓口へご相談ください。