1人に依存した状態のリスク
リビルトの工程には、判断が要る部分が多くあります。
- 分解して、どの部品を再使用するか
- 摩耗の程度をどこまで許容するか
- 測定値をどう解釈するか
- 組付のトルクと調整
- 完成品の試験と合否の判断
これらが1人の熟練者に集中している状態では、次の問題が生じます。
- その人が休めば生産が止まる
- 辞めれば事業が終わる
- 生産量がその人の処理能力で上限になる
- 品質が本人の体調や集中力に左右される
- 承継の場面で、事業として評価されない
最後の点が経営上の問題です。買い手から見れば、その人が残ってくれるかどうかが全てになります。技能が会社にあれば、事業として評価されます。
何を残すのか
「技能を残す」という言葉は曖昧です。分解して考えてください。
① 手順
どの順序で、何をするか。これは最も文書化しやすい部分です。
② 判断基準
最も重要で、最も文書化されていない部分です。「この摩耗なら使う、これなら交換」という線引き。
③ 感覚
音、感触、匂いによる判断。完全に文書化するのは難しいものです。しかし動画と音声で記録できる部分があります。
④ 例外への対応
想定外のことが起きたときの判断。事例として蓄積する形になります。
進め方
段階1:手順を撮る
まず、熟練者の作業を動画で撮ってください。特別な準備は不要です。手元が写れば十分です。
撮る際のコツを挙げます。
- 1つの作業を1本の動画にする(長くしすぎない)
- 本人に声を出して説明してもらう
- 「なぜそうするのか」を言ってもらう
- 失敗しやすい点を聞く
3番目が肝心です。手順だけなら見れば分かりますが、理由は聞かないと分かりません。
段階2:判断基準を数値にする
最も手間がかかり、最も価値がある作業です。
やり方としては、熟練者が判断するその場で「今、何を見て決めたのか」を聞き、記録します。
- 測定値の許容範囲
- 目視で判断する場合、良品と不良品の実物を並べて写真に撮る
- 迷う範囲があれば、それも記録する
写真が最も強いです。「このくらいの傷なら可、これは不可」を実物で示せば、言葉より正確に伝わります。
段階3:2人目を育てる
記録ができたら、それを使って人を育てます。
- まず簡単な工程から任せる
- 判断が必要な部分は、熟練者が確認する期間を設ける
- 判断が分かれたら、その事例を記録に追加する
- 徐々に任せる範囲を広げる
3番目が記録を育てます。教える過程で、記録の抜けが見つかります。
段階4:品質を測る
複数人で作るようになると、品質が振れるリスクがあります。
- 完成品の検査項目と記録を統一する
- 返品、クレームの発生率を作業者別に見る
- 差があれば、原因を特定して記録を補う
これは責める仕組みではなく、記録の不備を見つける仕組みです。品質の差は、多くの場合教え方の差から生じます。
熟練者の協力を得る
ここが実務で最も難しい部分です。
熟練者にとって、技能は自分の存在価値です。それを文書にして誰でもできるようにすることに、抵抗を覚えるのは自然なことです。
進め方としては次の点を伝えてください。
- 本人の役割がなくなるのではなく、教える役割が加わるということ
- 後進が育てば、本人が休めるようになる
- 身体的な負担の大きい作業を任せられるようになる
- その役割を処遇に反映する
4番目が実質的です。技能を残す仕事を、評価と報酬の対象にしてください。「余計な仕事が増えた」と受け取られれば進みません。
また、記録に本人の名前を残すという方法もあります。自分が作った基準として扱われれば、動機が変わります。
承継の場面での価値
整った状態と整っていない状態で、評価がどう変わるかを示します。
- 整っていない場合:「あの職人が残るなら買う」という条件が付きます。本人の意向が交渉を左右し、買い手も慎重になります。
- 整っている場合:技能が会社にある事業として評価されます。品質記録があれば、取引先からの信頼も引き継げます。
作業は数年かかります。しかし一度作れば、日々の生産にも、人の採用にも、承継にも効きます。熟練者が元気なうちにしかできない仕事です。
コアの確保も同時に考える
技能を残しても、再生の元になる部品(コア)が入ってこなければ事業は続きません。
次を確認してください。
- コアをどこから入手しているか
- その関係は社長個人に紐づいていないか
- 供給量は安定しているか、細っていないか
- EVが増えたとき、扱う品目はどうなるか
4番目が長期の課題です。エンジンやミッションを扱っているなら、供給は将来的に減ります。今のうちに、電動車で需要が生じる品目を検討しておく価値があります。
技能の記録と、コアの確保。この2つが揃って初めて、事業として引き継げる形になります。
※ 技能の記録と教育の進め方は、工程と人員構成によって異なります。自社の実情に合わせてご検討ください。