まず事業ごとに数字を分ける

判断の前提です。これができていない会社が多くあります。

分けるべき項目を挙げます。

  • 売上(事業別)
  • 売上原価(部品、外注、材料)
  • 人件費(兼務している人はどう按分するか)
  • 設備の減価償却(どちらの事業で使っているか)
  • 土地・建物の費用(面積で按分)
  • 共通の管理費(何らかの基準で按分)

難しいのは兼務している人と共通費です。完璧な按分は不要です。作業時間の割合や面積の割合といった、説明できる基準で分けてください。

これをやると、多くの場合「片方が思っていたより儲かっていない」という結果が出ます。それが判断の起点になります。

事業間の取引を整理する

兼業している会社では、社内で物やサービスが行き来しています。

  • 整備工場が解体部門から中古部品を仕入れる
  • 整備工場で下取りした車を解体部門へ回す
  • 解体部門の車両整備を整備工場が行う
  • 事務や経理を共通で行っている

これらが無償、または実勢と離れた価格で行われていると、各事業の実際の採算が分かりません

承継を考えるなら、社内取引を市場価格に近い形で評価し直してください。分けて渡す場合、この取引が外部との取引になります。その価格で成り立つのかを事前に確認する必要があります。

まとめて渡す場合

利点

  • 手続きが1回で済む
  • 株式譲渡なら、許認可も契約もそのまま引き継げる
  • 社内取引の整理が不要
  • 従業員の異動や再契約が発生しない

難点

  • 買い手が限られる:両方の事業を欲しい相手を探すことになります。
  • 片方が赤字なら、全体の評価が下がる
  • 買い手が片方を不要と考えれば、その分が減額される

1番目が最大の課題です。整備工場を買いたい会社と、解体ヤードを買いたい会社は、必ずしも同じではありません。両方を求める買い手は、それぞれを求める買い手より少ないのが実際です。

分けて渡す場合

利点

  • 買い手の候補が広がる:それぞれに適した相手を探せます。
  • それぞれの事業を評価してくれる相手に渡せる
  • 片方だけ残して続けるという選択も取れる
  • 赤字部門を先に整理してから渡すという設計ができる

難点

  • 手続きが煩雑:事業譲渡になれば、許認可は取り直し、契約も結び直しになります。
  • 土地と建物が一体なら、分けられないことがある
  • 兼務している従業員をどちらに配置するか決める必要がある
  • 社内取引が外部取引になり、条件を決め直す必要がある
  • 時間がかかる

2番目が現実的な障壁になります。同じ敷地に整備工場とヤードがある場合、物理的に分けられるのかを確認してください。分けるなら、境界、動線、設備の帰属を整理する必要があります。

許認可の帰属を確認する

この業態では特に重要です。整理してください。

  • 分解整備に関する認証、指定
  • 解体業許可、破砕業許可
  • 引取業、フロン類回収業の登録
  • 産業廃棄物処理業の許可
  • 古物商許可
  • 中古車販売に関するもの

これらはすべて会社という法人が受けています。分けて渡す場合、どちらの事業に必要なのか、そして買い手が取り直せるのかを確認する必要があります。

取り直しに要する期間が、譲渡のスケジュールを決めることになります。

判断の順序

実務としては、次の順で検討してください。

  1. 事業別の採算を出す:これがないと何も判断できません。
  2. 物理的に分けられるかを確認する:土地、建物、設備、動線。
  3. 赤字部門があれば、その扱いを決める:改善するのか、整理するのか。
  4. それぞれの事業に、買い手の候補があるかを探る
  5. まとめた場合と分けた場合の手取りを比較する

4番目は自社では難しいため、相談先を使うことになります。その際、事業別の数字を持っていることが前提です。

片方を先に整理するという設計

実務でよく取られる形です。

採算の合わない部門、または承継の妨げになる部門を先に整理し、残った事業を渡す。

  • 解体部門を先に閉じ、整備工場として渡す
  • 整備部門を従業員に譲り、解体を第三者へ渡す
  • 片方を縮小してから、まとめて渡す

この設計には時間がかかります。閉じる部門の設備撤去、原状回復、在庫処分が発生します。その費用を把握したうえで、残る事業の評価が上がる分と比べてください。

引退まで5年以上あれば、この設計が取れます。3年を切ると選択肢が狭まります。まず事業別の数字を出すところから始めてください

従業員にどう伝えるか

分けて渡す場合、従業員は「自分はどちらに行くのか」を気にします。ここを曖昧にすると、決まる前に人が抜けます。

進め方としては次の点を押さえてください。

  • 兼務している人の配置を、先に決めておく
  • 処遇が変わらないことを明示できるなら、そう伝える
  • 伝える順序を設計する(中核となる人 → 全体)
  • 質問を受ける場を設ける

1番目が最も難しく、最も重要です。「両方の仕事をしている人」は、どちらの事業にとっても必要な人材であることが多くあります。買い手同士の調整が必要になる場面です。

先に本人の意向を聞いておくことも考えられます。ただし、決まっていない段階で聞けば動揺を招くため、時期の判断が要ります。相談先と設計してください。

※ 事業の切り分けや許認可の取り扱いは個別の事情によって異なります。実際の設計は税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。