減るもの
エンジンとミッション
再使用部品として売れる代表的な部位がなくなります。リビルトの元になるコアとしての需要もあります。
アルミや鉄としての価値も同時に失われます。1台の重量構成が変わるということです。
触媒
貴金属を含むため、1台あたりの収益に大きく寄与してきた部位です。エンジンがなければ、これもありません。
触媒に依存している度合いが高い会社ほど、影響が大きく出ます。
その他
- 燃料系の部品(タンク、ポンプ、噴射装置)
- 排気系の部品(マフラー、配管)
- エンジン周辺の補機類
増えるもの
駆動用電池
収益になるのか、費用になるのか。現状では引渡先と条件によって変わります。
再利用や再資源化の仕組みが整うほど、収益に近づく可能性があります。一方で、取り外しに手間がかかり、保管にも設備と管理が必要です。この負担は確実に発生します。
モーターとインバーター
銅やレアメタルを含みます。取り外して素材として出す、または部品として売るという道があります。
ただし取り外しの手間と、得られる金額の比較が必要です。この判断は素材相場によって変わります。
その他
- ハーネスの量が増える車種がある(銅の回収量が増える可能性)
- 電子部品、制御装置
- 車体の軽量化に伴い、アルミの比率が上がる場合がある
手間とリスクは確実に増える
収益の変化とは別に、負担が増えます。
- 高電圧作業のための教育(人と時間)
- 絶縁装備(消耗品として継続的に発生)
- 電池の保管場所と管理
- 取り外し作業の時間(1台あたりの工数が増える)
- 火災リスクへの備え
- 保険の見直し
これらは台数が少ないうちから発生します。EVが1台入ってきても、装備と教育は必要です。
自社への影響を測る
感覚で「大変だ」と言っていても手は打てません。数字にしてください。
手順を示します。
- 1台あたりの収益を部位別に分解する:エンジン・ミッション、触媒、その他部品、鉄、非鉄、制度に基づく資金。直近の実績から概算を出します。
- なくなる部分の比率を出す:エンジン系と触媒が、1台の収益の何割を占めているか。
- その比率を当てはめる:入庫のうちEVが1割になったら、2割になったら、収益はどう変わるか。
- 増える負担を加える:教育、装備、工数。
この計算をすると、「何割まで耐えられるか」が見えます。そこから逆算して準備の期間が決まります。
今すぐ全部やる必要はない
重要な判断があります。入庫台数に対してEVが何割になったら、本格的な投資をするのか。
今の入庫を確認してください。地域と入庫元によって、電動車の比率は大きく違います。年に数台なら、外注や連携で対応するという選択も合理的です。
段階を分けて考えてください。
- 第1段階(今すぐ):現場の全員に危険性を周知する。判断基準を作る(電動車が入ってきたらどうするか)。装備を最小限そろえる。
- 第2段階(比率が上がってきたら):教育を受けた人を複数確保する。保管場所を整備する。引渡先を確保する。
- 第3段階(本格的に増えたら):設備投資。作業区画の整備。
第1段階は費用がほとんどかかりません。今日からできます。そしてこれをやっていないと、事故が起きたときに「知らなかった」では済みません。
引退時期との関係
ここが経営判断の核心です。
60代後半、70代の経営者にとって、EV対応への大きな投資は回収できない可能性があります。しかし何もしなければ、数年後には「EVを扱えない解体業者」になります。
判断の材料を挙げます。
- 自社の商圏で、電動車の比率はどれくらいのペースで上がっているか
- 投資額と、回収に要する期間
- 引退までの年数
- 投資した場合、譲渡時の評価はどれだけ上がるか
- 投資しない場合、譲渡時にどう見られるか
最後の2つが重要です。EV対応の体制がある会社は、買い手から見て「将来も事業を続けられる」と評価されます。投資額の一部は譲渡価格で回収できる可能性があります。
逆に、対応の目処が立っていないヤードは、買い手が自分で投資することになります。その分が価格から差し引かれます。
数字を出して比べてください。「自分の代で回収できるか」ではなく「会社として何が残るか」で判断する場面です。
部品としての需要はどうなるか
素材の話とは別に、再使用部品の観点も整理しておきます。
電動車が増えても、次の部品は残ります。
- 外板、バンパー、ドア、ライト類
- 内装、シート、内張り
- サスペンション、ブレーキ、ステアリング
- ガラス、ミラー
- 電子部品、制御装置
つまり「走る・曲がる・止まる」のうち、動力系以外は変わりません。事故車の修理需要も続きます。
したがって、部品販売の比率が高い会社は、動力系の変化による影響が相対的に小さくなります。これは今から比率を動かせる要素です。
入庫元に聞いてみる
自社の商圏で電動車がどのペースで増えるかは、統計より現場の情報のほうが正確です。
取引のある整備工場や販売店に聞いてください。
- 電動車の入庫や販売はどれくらいあるか
- 数年後にどうなると見ているか
- 電動車の廃車が出たとき、どこへ回しているか
3番目が営業の機会にもなります。「受け入れられる体制がある」と言えれば、他社が断る案件が回ってきます。早く整えた会社の優位は、この形で表れます。
※ 電池やモーターの引取条件、素材の価値は市況と引渡先によって変動します。本記事は考え方の整理であり、具体的な金額を示すものではありません。