何が違うのか

始動用の鉛バッテリーと駆動用電池は、まったく別のものです。

  • 電圧が高い:数百ボルトに達します。人が触れれば致命的になり得ます。
  • スイッチを切っても電圧が残る:パック内部は常に帯電しています。
  • 質量が大きい:数十キログラムから、車種によってはさらに重くなります。
  • 損傷すると発熱・発火する:しかも時間が経ってから起きることがあります。
  • 水をかけても消えにくい:内部で反応が続きます。

この5つを現場の全員が理解していることが前提です。知らない人が善意で触るのが最も危険です。

従事させる前に整えること

① 教育

感電の危険がある作業に従事させる際には、必要な教育を受けさせる必要があります。どの教育が必要かは作業内容と電圧によって変わるため、確認したうえで手配してください。

教育の記録を残すことも忘れないでください。労働安全の面でも、承継の場面でも問われます。

② 装備

  • 絶縁用の保護手袋(点検して使う。傷や穴があれば使えません)
  • 絶縁性のある工具
  • 保護眼鏡、作業服
  • 絶縁性の靴
  • 電圧を確認できる測定器

手袋は消耗品です。使用前に空気を入れて漏れがないか確認するという手順を習慣にしてください。

③ 作業場所

  • 他の作業から離れた区画
  • 周囲に可燃物がない
  • 水濡れしない(雨天の屋外作業は避ける)
  • 取り外した電池を置く場所が確保されている
  • 消火の手段が手元にある

④ 担当を限定する

誰でも触れる状態にしないでください。教育を受けた人だけが従事するという運用を明示します。

ただし1人だけにするのも危険です。その人が不在なら作業が止まり、無理に他の人がやることになります。複数人を確保してください。

作業の基本的な流れ

車種によって手順が異なるため、ここでは共通する考え方を示します。実際の作業は車種ごとの情報に従ってください

  1. 車両を確認する:電動車かどうか、どの方式か、外観に損傷がないか
  2. 作業区画へ移動する
  3. 始動用バッテリーの端子を外す
  4. 高電圧系を遮断する:所定の手順で行います
  5. 一定時間おく:内部の電気が放電するのを待ちます
  6. 電圧を測って確認する:手順を踏んだつもりでも、実測で確かめます
  7. 取り外す:質量があるため、吊具や台車を使います
  8. 保管場所へ移す
  9. 記録する

5番目と6番目を省略しないでください。「手順を踏んだから大丈夫」ではなく「測って確認した」という状態を作ります。

損傷している場合

事故車では、外観で判断できない内部損傷があり得ます。

次の兆候があれば、通常の作業に進まないでください。

  • パックの外装に変形、亀裂がある
  • 異臭がする
  • 発熱している(手を近づけて確認)
  • 煙や液体が出ている
  • 車両が水没していた
  • 大きな衝撃を受けた形跡がある

この場合の対応は、離隔した場所へ移して観察することが基本になります。無理に取り外そうとせず、引渡先や専門の事業者に相談してください。

持ち上げるときの注意

質量があるため、電気以外のリスクもあります。

  • 落下させれば、内部が損傷して発火の危険が生じる
  • 人が下敷きになる
  • 無理な姿勢での作業で腰を痛める

吊具を使う場合は、玉掛けの資格が必要な作業に該当しないかを確認してください。電気の資格だけでなく、荷役の資格も関係します

手順書を作る

この作業は、口頭の申し送りで済ませてはいけない種類のものです。

手順書に入れる内容を挙げます。

  • 従事できる人(教育を受けた人の名前)
  • 装備の一覧と、使用前点検の方法
  • 作業の手順(写真付き)
  • 電圧を確認する方法と、確認すべき値
  • 損傷が疑われる場合の判断基準と対応
  • 異常が起きたときの連絡先と初動
  • 記録する項目

写真を入れることが重要です。文章だけでは、どの部品を指しているか伝わりません

そして年に一度は見直してください。扱う車種が増えれば、手順も変わります。

承継の場面での意味

買い手はこの領域を必ず確認します。理由は明確です。事故が起きれば、引き継いだ後に責任を負うからです。

見られるのは次の点です。

  • 教育を受けた人が何人いるか
  • 手順書があるか、実態と合っているか
  • 装備が揃い、点検されているか
  • 保管場所が適切に確保されているか
  • 過去に事故やヒヤリハットがあったか、その後どうしたか

整えていない会社は、「今後EVが増えたときに対応できない」と評価されます。逆に体制がある会社は、それだけで差がつきます。今から準備する価値がある領域です。

台数が少ないうちにやっておくこと

電動車の入庫が年に数台なら、大きな投資は不要です。しかしゼロ台でも今日からできることがあります。

  1. 現場の全員に、駆動用電池の危険性を周知する
  2. 「電動車が入ってきたらどうするか」を決めて掲示する(誰に報告し、どこに置くか)
  3. 鉛バッテリーと駆動用電池を混同しないよう、呼び方と置き場を分ける
  4. 引渡先の候補を調べておく

2番目が最も重要です。知らない人が善意で触るのを防ぐための一枚です。費用はかかりません。

そのうえで台数が増えてきたら、教育と装備、保管場所の整備へ段階を上げてください。

※ 作業の手順、必要な資格・教育は車種と作業内容によって異なります。実際の作業は車種ごとの情報および所定の手順に従い、必要な教育を受けた者が行ってください。