「事業者が減れば大手に集約される」という見方

どの業界にも、事業者の数がある水準を割り込むと上位数社への集約が一気に進む、という見方があります。実際、他の業界では統合が加速し、気がつけば大手数社が市場の大半を占めていた、という例は珍しくありません。

自動車整備の世界でも、廃業や譲渡の話を聞く機会は年々増えています。では整備業も同じ道をたどるのか。結論から言えば、たどりません。ただし「集約しない」わけでもありません。形が違うのです。まずは足元の数字から確認していきます。

数字で見る整備業界の現在地

日本自動車整備振興会連合会の「自動車特定整備業実態調査」(2025年度)では、全国の事業場数は92,251、うち指定工場は29,810で、事業場数は4年ぶりに減りました。一方、総整備売上高は6兆6,592億円で、4年連続の増加です。

事業場は減っているのに、売上は増えている。つまり1事業場あたりの売上が伸びているということです。電子制御装置整備のように単価の高い作業が増えたこと、部品や工賃の価格改定が進んだことが背景にあります。市場が縮んでいるから統合が起きている、という単純な構図ではありません。

厳しさが出ているのは人の面です。同じ調査で整備要員は402,367人、その平均年齢は47.7歳(自家用を除く)。平均年収は442万8,900円で、前年度より4.0%上がりました。売上が伸びても、人を確保するための負担がそれ以上に重くなっている工場は少なくありません。

整備業が他業界と同じようには集約されない理由

整備業には、他の業界にはない前提が二つあります。車検制度と法定点検です。

車は決められた周期で検査と点検を受けなければならず、その受け皿は物理的に近い場所になければ成り立ちません。遠隔で代替できる仕事ではないのです。だからどれだけ再編が進んでも、地域に工場そのものは残ります。ここが、店舗を統廃合して効率化できる業種との決定的な違いです。

したがって整備業の集約は、「大手数社に吸収されて地域の工場が消える」形ではなく、「地域の工場が、資本や体制の面でどこかのグループに属する」形で進みやすくなります。看板も場所も整備士もそのままで、後ろ側の体制だけが変わっていく。実際に成立しているM&Aの多くは、この形です。

それでも集約を押す三つの圧力

工場が地域に残るとしても、単独で持ちこたえられるかどうかは別の話です。いま整備工場には、大きく三つの圧力がかかっています。

  • ——整備士が入ってこない。平均年齢が上がり、採用は給与だけの勝負になりやすい
  • 設備——電子制御装置整備やADAS対応で、更新に必要な金額が以前と桁違いになった
  • 後継者——継ぐ人がいない。あるいは、いても経営を任せられるかの判断がつかない

後継者については、帝国データバンクの「全国企業『後継者不在率』動向調査(2025年)」で、全国の後継者不在率は50.1%でした。同じ調査では、後継者候補の属性で最も多いのは「非同族」の41.0%で、初めて4割を超えています。親族に継がせるのが当たり前という時代ではなくなりました。

この三つは、どれも一社の努力だけでは解きにくい問題です。単独では設備投資に踏み切れない、採用でも勝てない。だからグループの一員になる、という選択が現実味を帯びてきます。

いちばん悩んでいるのは「中くらいの会社」

当社がご相談を受けるなかで感じるのは、売上10億円から20億円くらいの規模の会社が、いちばん跡継ぎに悩んでいるということです。

小規模であれば、畳むという選択も現実的に取れます。相応の規模があれば、社内に経営層の候補が育っていることが多い。その中間が、いちばん逃げ道が少ないのです。従業員も設備も抱えていて畳むわけにいかないのに、社内に継げる人がいない。この層の経営者が、最も切実な状態で相談に来られます。

そして厄介なのは、この規模の会社ほど「まだ自分が元気だから」と判断を先送りしやすいことです。準備に使える時間があるうちに動けるかどうかで、選べる選択肢の数がまったく変わります。

「磨き上げ」とは、具体的に何をすることか

ご相談を受けたときにまずお伝えしているのは、内部体制やESG(環境・社会・ガバナンス)、コンプライアンスを踏まえた磨き上げが重要になる、ということです。譲るかどうかを決める前に、良い会社をつくる準備を先に進めましょう、と。

磨き上げというと抽象的に聞こえますが、やることは具体的です。

  • 誰が何を担当しているのかを、社長の頭の中から書き出して図にする
  • 車検・一般整備・鈑金・車販といった部門ごとに、売上と粗利を分けて見えるようにする
  • 就業規則、労働時間、残業代の扱いが、実態と合っているかを点検する
  • 産業廃棄物、フロン、塗料など、法令にかかる処理の記録を残す形にする
  • 主要な取引先や外注先との契約を、口約束のままにしない

いずれも買い手が必ず確認するところですが、同時に、譲らずに続ける場合でも会社を強くする作業でもあります。磨き上げは出口のためだけの準備ではありません。当社の場合も、磨き上げからお手伝いを始めて、結果としてM&Aに進むのは半分ほどです。

選ばれる会社になるための準備の手順

順番を間違えると、選択肢を自分で狭めてしまいます。次の流れで考えてみてください。

  1. 継げる人がいるかを、順番に確認する。まず親族内、次に親族外(社内)。ここを飛ばしてM&Aの話から始めると、後から「やはり社内で」という話が出て振り出しに戻ります
  2. いない場合の選択肢を並べる。第三者への承継(M&A)、廃業、そして事業の形によっては上場という道もあります。それぞれで従業員の処遇、許認可の扱い、手元に残る金額がどう変わるかを比べます
  3. 磨き上げに着手する。前章の5点を、引退したい時期から逆算して計画に落とします
  4. 数字を見える形に整える。部門別の採算、設備の更新履歴、整備士の年齢構成と資格の内訳。相手が判断に使う材料を先に揃えておくと、話が早く進みます
  5. 相手を探す。ここで初めて、具体的な候補との話に入ります

実際、資料が整っている会社ほど短期間でまとまります。判断に必要な材料をすぐ出せることが、そのまま交渉の速さになるからです。

相談先を選ぶときに見るところ

事業の譲渡は、一生に一度あるかないかのことです。だからこそ、業界に詳しい専門家を選び、相手をよく見ながら進めていただきたいと考えています。

整備業には、指定工場・認証工場の扱い、整備主任者や自動車検査員の要件、地域の整備振興会との関係など、業界の外から見ると分かりにくい論点がいくつもあります。ここを知らない相手と進めると、条件を詰める段階で話が止まります。

  • 許認可と人の要件が、承継の方法によってどう変わるかを説明できるか
  • 整備団体や地域の実情を知っているか
  • 譲る前提で話を進めず、「譲らない」選択肢も一緒に検討してくれるか
  • 従業員や取引先への伝え方まで、相談に乗ってくれるか

最後の点は特に重要です。M&Aで最も不安を感じるのは、経営者ではなく従業員です。何をどの順番で伝えるかまで一緒に考えられる相手かどうかで、譲渡後の会社の姿が変わります。

よくある質問

Q. 集約が進むなら、早く譲ったほうが有利ですか。A. 時期だけで決めるものではありません。整った会社ほど評価されやすいので、磨き上げに使える時間があるなら、その時間を使ったほうが結果は良くなります。ただし、体力と判断力があるうちに動くことは大切です。「まだ早い」と「もう遅い」の差は、健康状態で急に変わります。

Q. 親族にも社内にも継ぐ人がいません。廃業しかないですか。A. いいえ。第三者への承継は年々増えています。中小企業基盤整備機構が公表した「令和6年度 事業承継・引継ぎ支援センターの実績」では、第三者承継(M&A)の成約件数は2,132件で過去最高を更新しました。廃業を決める前に、譲った場合と畳んだ場合の手取りを比べてみてください。

集約局面を「引き受ける側」から見る

ここまでは譲る側の話をしてきましたが、同じ局面は引き受ける側にとっての機会でもあります。近隣の工場が廃業すれば、そのお客様はどこかへ流れます。体力のある会社にとっては、商圏を広げる好機です。

  • 近隣工場を引き受けて、対応できるエリアを広げる
  • これまで断っていた作業を、設備と人を得て内製に切り替える
  • 整備士をまとめて迎え入れ、採用の穴を埋める
  • 車販やリースなど、隣接する事業と組み合わせて単価を上げる

ただし、規模だけを追うと足元の財務を痛めます。引き受けた工場の採算、既存拠点との距離、そして何より現場の相性を冷静に見極めることが必要です。攻めの一手ほど、数字で確かめてから動いてください。

まとめ

自動車整備業界の集約は、車検制度と地域性がある以上、工場が地域から消える形では進みません。進むのは、地域の工場が体制の面でどこかに属していく形です。人・設備・後継者という三つの圧力は、単独では解きにくいからです。

その流れのなかで自社をどう位置づけるか。譲るにせよ、引き受けるにせよ、続けるにせよ、準備の中身は変わりません。数字を見える形にし、人と許認可を整理し、時間があるうちに選択肢を並べておくこと。判断はそのあとで構いません。迷ったときは、業界の事情が分かる相手にご相談ください。