費用の全体像を知る大切さ
M&Aで会社を売ると、対価を受け取れる一方で、いくつかの費用も発生します。この費用を把握していないと、最終的に手元に残る金額を見誤ってしまいます。
費用の全体像を早い段階で理解しておくことは、資金計画を立てるうえでも、相談先を選ぶうえでも役立ちます。「価格がいくらか」と「手元にいくら残るか」は別の問いだ、という前提に立つことが出発点です。まずは、売り手が負担する主な費用にどんなものがあるのかを見ていきましょう。
売り手が負担する主な費用
M&Aで売り手側にかかる費用は、大きく次のように分けられます。すべてが必ず発生するわけではなく、進め方や相談先によって異なります。
- 仲介会社やアドバイザーに支払う手数料
- 弁護士・税理士など専門家に依頼する費用
- 契約書の印紙、登記や名義変更などの手続きにかかる費用
- 売却で得た利益に対する税金
このうち、多くの場合で中心になるのが仲介手数料です。ただし、税金も手取りに大きく影響するため、費用として意識しておく必要があります。それぞれを順に見ていきましょう。
仲介手数料の中身
仲介手数料は、相手探しから交渉、成約までを支援してもらうための費用です。会社によって、着手金・中間金・成功報酬といった費目の組み合わせが異なります。
成約時にのみ費用が発生する完全成功報酬型もあれば、途中の段階で費用が生じる型もあります。中間金は基本的な合意に至った時点で発生することが多く、その後に交渉が決裂しても戻らないのが通常です。
具体的な金額は各社・各案件で変わり、制度や料金体系も年度により異なります。一概には言えないため、契約前に、どの段階でいくら発生するのかを書面で確認することが欠かせません。
手数料の算定基準で金額は変わる
同じ料率でも、何を基準に計算するかで請求額は変わります。ここは説明を受けても流してしまいがちな論点ですが、金額への影響が大きい部分です。
基準となりうるのは、株式の対価そのもの、あるいは借入などの負債を含めた総額です。設備投資で借入が残っている整備工場では、この違いが数百万円の差になることもあります。自社の数字を当てはめた金額で説明してもらうのが確実です。
あわせて確認したいのが最低報酬額です。譲渡価格が小さい場合、料率で計算した額よりも最低報酬のほうが高くなり、手取りを大きく削ることがあります。小規模な譲渡ほど、この条件の影響が強く出ます。
専門家に支払う費用
M&Aでは、契約内容の確認や税務の検討のために、弁護士や税理士といった専門家の力を借りることがあります。これらに依頼する場合、別途費用が発生します。
どこまで専門家に依頼するかは、案件の複雑さや自社の体制によって変わります。仲介会社がこうした専門的な部分を含めて支援してくれる場合もあり、その範囲によって別途かかる費用も変わってきます。契約時に、どこまでが手数料に含まれ、どこからが別途負担になるのかを確認しておくと安心です。
顧問の税理士がいる場合でも、株式の譲渡や退職金の設計はふだんの記帳業務とは性質が異なります。M&Aの経験があるかを確かめ、必要なら仲介側の専門家と連携してもらう形を検討してください。
見落としやすい税金
費用というと手数料に目が向きがちですが、手取りを大きく左右するのが税金です。売却で利益が出た場合、その形態に応じて税がかかります。
税額は、どのような方法で売却するか、会社の資産構成や個人の状況によって変わります。株式譲渡か事業譲渡かでも、対価を受け取る主体が個人か会社かが変わるため、手元に残るまでの経路そのものが違ってきます。
税金の計算は制度の内容や個別事情に左右され、年度により異なります。断定はできませんので、手取りを正確に把握するには、税務の専門家に相談することをおすすめします。
費用は「タイミング」も重要
費用を考えるうえで、金額だけでなく、いつ支払うのかというタイミングも大切です。成約前に発生する費用と、成約後に発生する費用とでは、資金の準備の仕方が変わるからです。
成約前に着手金や中間金が発生する場合、たとえ交渉がまとまらなくても、支払った費用は戻らないのが通常です。一方、完全成功報酬型であれば、成約するまで費用が発生しません。費用の発生タイミングは、どこまでリスクを自分で負うかという選択でもあります。
業態ごとに変わる費用の勘所
自動車アフター業界といっても、費用がどこに寄るかは業態によって異なります。自社に近い型を押さえておくと、見積もりの妥当性を判断しやすくなります。
- 整備工場:認証・指定の要件確認と、設備評価のための調査に手間がかかる
- 鈑金塗装:設備や排水、廃棄物処理の確認が加わり、専門的な調査費用が生じることがある
- 中古車販売:在庫車両の評価と実地確認、古物商まわりの確認に費用と日数を要する
- 車検専門店:顧客データや予約の仕組みの引き継ぎに、システム面の費用が生じる場合がある
- 給油併設店:地下タンクや危険物に関する調査・撤去の費用が最大の変数になる
- 部品商:在庫量が多く、不動在庫の評価に時間と手間がかかる
- 輸入車:メーカーや輸入元との契約の扱いで、法務面の確認費用が増えることがある
- 二輪:規模が小さいため、最低報酬額の設定が手取りに与える影響が相対的に大きい
いずれも金額は個別性が高く一概には言えません。ただ、どこに費用が寄るかを先に知っておけば、見積もりの内訳を読み解けるようになります。
許認可や名義変更まわりの実費
手数料や税金の陰で忘れられやすいのが、手続きに伴う実費です。金額としては大きくないことが多いものの、抜けていると資金の見通しがずれます。
株式譲渡であれば、会社が持つ許認可は原則そのまま残るため、手続きは比較的軽く済みます。事業譲渡では、認証工場・指定工場の届出、古物商許可、危険物やフロン類に関する手続きなどを改めて行うことになり、その分の実費と時間が加わります。
あわせて、役員変更の登記、不動産を移す場合の登記、契約書に貼る印紙、社名や代表者名を使った各種名義の変更なども生じます。誰が手配し、どちらが負担するのかを、契約の段階で決めておいてください。
想定外の出費を防ぐ確認手順
費用をめぐる後々のトラブルや驚きを防ぐには、事前の確認が肝心です。次の手順で確かめておきましょう。
- どんな費目が発生するのかを一覧にする
- それぞれの費用の発生タイミングを確認する
- 手数料に含まれる範囲と別途負担を区別する
- 税金を含めた手取りの見通しを試算する
- 不明点は契約前に必ず質問して解消する
これらを丁寧に確認しておけば、後から「こんな費用は聞いていない」という事態を避けられます。分からない点を残したまま進めないことが、安心につながります。
契約前に確認しておきたい条項
費用の額そのものと同じくらい重要なのが、仲介契約に書かれた条件です。次の点は、締結前に文言で確かめてください。
- 報酬の算定基準と料率、最低報酬額の有無
- 着手金・中間金の有無と、不成立となった場合の返還の扱い
- 契約期間と、期間満了後に成約した場合の報酬の扱い
- 途中解約できるか、その際に費用が生じるか
- 他社と並行して相談してよいか(専任かどうか)
- 自分で見つけた相手と成約した場合にも報酬が発生するか
最後の項目は見落とされがちですが、同業の知人から声がかかることのある業界では現実的な論点です。口頭の説明ではなく、契約書のどこに書かれているかを指してもらいましょう。
費用を抑えるより「納得」を重視する
費用はできるだけ抑えたいと考えるのは自然なことです。しかし、費用の安さだけを追うと、肝心のサポートが手薄になり、かえって良い条件で売れなかったということにもなりかねません。
大切なのは、費用の中身とサービスの質のバランスに納得できるかどうかです。自動車アフター業界に詳しい相談先であれば、業態に即した費用の見通しを示してくれます。費用面で迷う点は、遠慮なく専門家に確認することをおすすめします。
費用は「投資」として捉える
M&Aにかかる費用を単なる出費と考えると、少しでも安く抑えたい気持ちが先に立ちます。しかし見方を変えれば、費用は良い相手を見つけ、望む条件で成約するための投資でもあります。
たとえば、専門家の支援によって自社の強みが的確に伝われば、より良い条件で売却できる可能性があります。次のような観点で、費用の意味を捉え直してみましょう。
- 費用によって相手探しの幅が広がるか
- 自社の強みを正しく評価してもらえるか
- 交渉や手続きの負担を減らせるか
- トラブルを防ぐ安心が得られるか
費用の絶対額だけでなく、それによって得られるものを見比べることで、納得のいく判断ができます。料率を少し下げる交渉より、価格の目線が上がるほうが手取りへの影響は大きい、という点も覚えておいてください。
資金計画に費用を織り込む
M&Aの費用は、成約後に受け取る対価から支払うのが一般的です。とはいえ、費用の発生タイミングによっては、成約前に一時的な負担が生じることもあります。
そのため、いつ・いくら支払うのかを把握し、資金計画に織り込んでおくことが大切です。とくに引退後の生活資金を見据えている場合、費用と税金を差し引いた手取りがいくらになるのかを、あらかじめ試算しておきましょう。あわせて、借入の返済や経営者保証の解除がいつになるかも確認しておくと、見通しがぶれません。
費用の見通しは早めに確認する
M&Aの費用は、売却を進めるなかで少しずつ具体化していきます。とはいえ、大まかな見通しは早い段階でつかんでおくほうが、後々の計画が立てやすくなります。
検討の初期に費用の全体像を確認しておけば、想定外の負担に慌てることがありません。相談の段階で、どんな費用がどのタイミングで発生するのかを率直に尋ねておきましょう。丁寧に説明してくれるかどうかは、その相談先が信頼できるかを見極める手がかりにもなります。
費用は交渉の進み具合によって変わる部分もあり、確定した金額を早期に断定するのは難しいものです。だからこそ、幅を持った見通しとして把握し、状況に応じて確認を重ねていくことが現実的です。
よくある質問
Q. 費用は結局いくらかかるのですか。 — 譲渡の金額、進め方、相談先によって変わり、個別性が高く一概には言えません。自社の想定価格を置いたうえで、費目ごとの概算を出してもらうのが確実です。
Q. 相談の段階から費用はかかりますか。 — 相談は無料としている会社が多く、当社も相談無料・完全成功報酬制です。ただし会社によって扱いは異なるため、最初に確認してください。
Q. 完全成功報酬なら他に一切費用は出ませんか。 — 仲介への報酬は成約時のみですが、売り手が独自に依頼した弁護士・税理士への費用、登記や印紙などの実費、そして税金は別に生じます。含まれる範囲を書面で確かめてください。
Q. 譲渡価格の目安はどう考えればよいですか。 — 時価純資産に営業利益の二〜三年分を加えた水準(時価純資産法)が目安とされますが、実際は交渉で決まります。目安は出発点として使い、そこから手取りを逆算してください。
Q. 交渉が途中で止まった場合、支払った費用は戻りますか。 — 着手金や中間金は返還されないのが通常です。返還の有無は契約書の記載によるため、締結前に必ず確認してください。
まとめ
M&Aで売り手が負担する費用には、仲介手数料、専門家費用、手続きに伴う実費、そして税金があります。とくに手数料の算定基準と発生タイミング、そして手取りを左右する税金は、見落とさないよう注意が必要です。
想定外の出費を防ぐには、費目と発生タイミングを事前に確認し、契約書の条項まで目を通し、税引き後の手取りを試算しておくことです。費用の安さだけでなく中身への納得を重視し、業界に詳しい専門家に相談しながら進めていきましょう。