「この借金はどうなる」という不安

整備工場や中古車販売の経営では、リフトや工場設備、車両在庫の仕入れなどで金融機関からの借り入れを利用してきた方が多いはずです。会社の売却を考え始めると、「残った借金は誰が背負うのか」「自分が結んだ個人保証はどうなるのか」という疑問が真っ先に浮かびます。

この不安は、正しい知識で整理すれば大きく軽くなります。借入金の扱いは売却の形によって変わり、個人保証の解除も協議によって道が開けます。逆に言えば、形を選ばずに漠然と不安を抱えている状態が、いちばん判断を鈍らせます。順を追って見ていきましょう。

まず借入の種類を分けて考える

「借入金」とひとまとめに考えると話が混乱します。扱いも見られ方も違うため、最初に分けて整理しておきましょう。

  • 設備資金の借入。リフト、テスター、塗装ブース、工場の建物などに対応するもので、返済期間が長く担保が付いていることが多い
  • 運転資金の借入。日々の支払いや季節の変動を埋めるもので、短期で借りては返す形が続いていることがある
  • 在庫の仕入れに使う資金。中古車販売や部品商で、残高が相場や仕入れの波で上下しやすい
  • リースや割賦。会計上の扱いが借入と異なることがあり、契約の引き継ぎに相手方の承諾が必要な場合がある
  • 社長個人からの借入(役員借入金)。会社から見れば負債だが、実質は自己資金に近い性格を持つことがある

この分類は、後で買い手に説明するときにもそのまま使えます。特に役員借入金は、返済するのか、譲渡に際して整理するのかを事前に決めておかないと、条件交渉の途中で論点として浮上します。

株式譲渡なら借入は会社に残ったまま引き継がれる

会社の株式ごと買い手に譲る株式譲渡では、会社そのものが存続します。そのため、会社が抱える借入金も、会社の資産や契約とともに、そのまま新しいオーナーのもとへ引き継がれるのが基本です。借金だけを切り離して手元に残す、という形にはなりません。

つまり、返済の主体は引き続き会社です。オーナーが代わっても、金融機関との融資契約自体は会社に紐づいて残ります。中小企業のM&Aで株式譲渡が多く選ばれる背景には、こうした引き継ぎのわかりやすさもあります。認証工場の指定や古物商の許可、取引先との契約も会社に付いたまま残るため、手続きの負担が比較的軽い点も選ばれる理由です。

ただし、借入が会社に残るということは、簿外の債務や個人的な借入もそのまま引き継がれるということでもあります。買い手が事前の調査を丁寧に行うのはそのためで、売り手側も隠さず開示することが結果的に信頼につながります。

事業譲渡では引き継ぐ範囲を個別に決める

一方、事業だけを切り出して譲る事業譲渡では、何を引き継ぎ、何を残すかを個別に取り決めます。借入金についても、買い手が引き受けるのか、売り手側に残すのかを交渉で決めていく形になります。

この場合、借入をそのまま買い手に移すには金融機関の同意が必要になるなど、手続き上の論点が増えます。実務では、譲渡代金で借入を返済し、残った会社を整理するという流れになることも多く見られます。買い手にとっては、過去の債務を引き継がずに事業だけを取得できる点が利点になります。

反面、許認可や契約は自動的には移りません。認証工場の手続き、古物商の許可、賃貸借契約の名義、従業員の雇用契約はいずれも取り直しや承諾が必要です。どちらの形が自社に合うかは、借入の状況や資産構成、許認可の重さによって変わるため、専門家に全体像を整理してもらったうえで判断するのが安全です。

残債と売却価格の関係

借入金の残り(残債)は、会社の価値を見るうえで無視できません。企業価値を測るとき、手元の現金や資産だけでなく、借入などの負債も差し引いて考えるのが一般的です。借入が多ければ、その分だけ手取りに影響することは理解しておきましょう。

中小企業の株式譲渡では、時価純資産に営業利益の二年から三年分を加えるという時価純資産法の考え方が目安として使われることが多く、借入はこの時価純資産の計算の中で差し引かれます。ただしこれはあくまで目安であり、実際の価格は交渉で決まります。

ただし、借入があるからといって売れないわけではありません。設備投資のための健全な借り入れは、事業を成長させてきた証でもあります。大切なのは、借入の中身と返済状況を整理し、買い手に正しく理解してもらうことです。数字の見立ては個別性が高いため、具体的な評価は専門家に相談してください。

手元の現金と借入は差し引いて見る

見落とされがちなのが、借入の額だけを見て一喜一憂しないという視点です。買い手は通常、借入から手元の現預金を差し引いた実質的な負債で会社を見ます。

たとえば、まとまった借入があっても、同じくらいの現預金を持っているのであれば、実質の負担は見た目ほど大きくありません。逆に、借入は少なくても現預金が薄く、支払いのたびに資金繰りが厳しくなる状態であれば、数字以上に警戒されます。

自社の状況を確認するには、借入残高、現預金、そして年間の返済額を並べてみることです。返済に追われているのか、余裕をもって返せているのかが見えてきます。この感覚を持って交渉に臨むと、提示された条件の意味を理解しやすくなります。

業態によって借入の見られ方は変わる

同じ金額の借入でも、業態によって買い手の受け止め方は違います。

  • 整備工場や車検専門店では、車検や点検による継続的な入庫が返済を支えるため、顧客台数と入庫サイクルが示せれば借入は前向きに評価されやすい
  • 鈑金塗装では、フレーム修正機や塗装ブースなど設備の残存価値が大きく、借入と設備の対応関係を説明できるかが鍵になる
  • 中古車販売では、在庫の仕入れ資金と在庫の実在・評価が対で見られる。滞留在庫があると、借入だけが残っている形に見えてしまう
  • 部品商では、借入と売掛金・在庫の関係が問われ、回収が滞っていないかが焦点になる
  • ガソリンスタンドでは、地下タンクなど今後の設備更新の負担を織り込んで判断されることが多い
  • 輸入車や二輪の専門店では、規模が小さいぶん役員借入金や個人名義資産の整理状況が目立ちやすい

自社の業態でどこを見られるかが分かっていれば、事前に資料を整えて臨めます。

個人保証はどうなるのか

経営者が最も気にかけるのが、自分が結んだ個人保証(経営者保証)の行方です。会社の借入に対して社長個人が連帯保証していると、「会社を譲っても保証だけ自分に残るのでは」と不安になります。

個人保証は、売却したからといって自動的に消えるわけではありません。保証を外すには、金融機関との協議と手続きが必要です。とはいえ、オーナーが代わり、新しい経営体制のもとで返済が続く前提が整えば、保証の解除に向けた話し合いを進められます。経営者保証に依存しすぎない融資を促す指針や取り組みも広がっており、解除の相談はしやすくなってきています。

実務上は、買い手が新たに保証を差し入れるかたちで前の経営者の保証が外れる、あるいは買い手の資金で借入が返済され保証の対象そのものがなくなる、という流れが多く見られます。いずれにしても金融機関の了承が前提であり、当事者だけで決められるものではありません。

保証解除に向けて確認したいこと

個人保証の解除をスムーズに進めるために、確認しておきたいポイントを挙げます。

  • どの借入に、誰が、どのような保証を付けているかの一覧
  • 保証を外すために金融機関が求める条件や見通し
  • 買い手が保証を引き受ける意向があるかどうか
  • 解除のタイミング(引き継ぎのどの段階で外れるか)
  • 解除までの間に残るリスクと、その備え
  • 配偶者や親族が保証人に入っていないか、担保に個人資産が含まれていないか

これらは自分だけで金融機関と交渉するより、事情に通じた専門家を交えて進めた方が、話が整理され前に進みやすくなります。特に最後の項目は見落としやすく、本人の保証だけを外して安心していたら家族の保証が残っていた、ということが起こり得ます。

買い手はなぜ借入込みでも引き継げるのか

「借金のある会社を、なぜ買い手は引き継いでくれるのか」と疑問に思うかもしれません。買い手が見ているのは、借入の額そのものだけでなく、その借入で築いた設備や事業がこれからどれだけ稼ぐかという将来性です。

きちんと稼げる事業であれば、借入は返済していける前提で評価されます。整備需要や顧客基盤がしっかりしていれば、多少の借入があっても引き継ぐ判断は十分にあり得ます。むしろ、借入で更新済みの設備がそろっている会社は、買い手にとって当面の投資負担が軽いという見方もできます。

逆に、借入の中身が不透明だと不安を持たれます。何のための借入か説明できない、返済条件を把握していない、という状態は避けたいところです。日頃から借入と返済の状況を整理しておくことが、そのまま交渉の準備になります。

経営者が代わることを契約が想定しているか

融資契約や取引契約の中には、経営権や株主構成が変わったときに相手方への通知や承諾を求める条項が入っていることがあります。金融機関との契約に加え、リース契約、フランチャイズ契約、ディーラーや保険会社との提携契約、店舗の賃貸借契約なども確認が必要です。

これらを事前に洗い出しておかないと、譲渡の直前になって承諾が取れず、日程が動かせなくなることがあります。契約書を集めて条項を確認する作業は地味ですが、進行を止めないための重要な準備です。

契約の解釈や手続きの要否は個別性が高いため、弁護士など専門家に確認しながら進めることをおすすめします。

借入を抱えたまま売却を進める手順

借入や保証を抱えた状態から売却を検討する場合の、おおまかな流れを示します。

  1. 借入金の残高・返済条件・保証の状況を一覧に整理する
  2. リース・割賦・役員借入金など、借入以外の負債も棚卸しする
  3. 株式譲渡と事業譲渡のどちらが自社に向くかを専門家と検討する
  4. 借入と保証の扱いを、売却条件の中に位置づける
  5. 買い手候補や金融機関と、引き継ぎと保証解除の道筋を協議する
  6. 解除のタイミングと残るリスクを確認し、契約に反映する
  7. 引き継ぎ後、解除の手続きが実際に完了したことを書面で確認する

借入と保証の問題は、承継の中でも神経を使う部分です。だからこそ早い段階で全体像を把握し、順序立てて進めることが、安心して手放すための近道になります。最後の確認まで済ませて、はじめて完了と言えます。

よくある失敗と回避策

借入と保証をめぐって起きやすいつまずきを挙げておきます。

  • 譲渡条件がまとまってから金融機関に初めて相談し、手続きが間に合わない。打診の順番は専門家と決めたうえで、早めに動くのが基本です
  • 保証が外れる前提で話が進み、書面での確認をしないまま引き継ぎを終える。解除は必ず書面で確かめましょう
  • 役員借入金の扱いを決めずに進め、最終段階で条件のもつれになる
  • リース物件を自社資産と思い込んでいて、譲渡の対象から抜け落ちる
  • 借入の一覧を作らないまま交渉に入り、買い手からの質問に即答できず信頼を損なう

いずれも、事前の棚卸しと早めの相談で避けられるものです。

従業員や取引先への配慮

借入や保証の整理は経営者と金融機関の間の話ですが、進め方によっては社内外に波及します。金融機関の担当者が工場に出入りする回数が増えれば、従業員は何かあったのかと感じます。

だからこそ、情報を伝える順番と範囲をあらかじめ決めておくことが大切です。社内へは、譲渡の枠組みが固まった段階で、雇用や待遇がどうなるのかとあわせて伝えるのが一般的です。整備士や工場長など、現場を支える人には特に丁寧な説明が求められます。

取引先については、部品商やディーラー、保険代理店など、日々の入庫と仕入れに関わる相手ほど早く不安が伝わります。引き継ぎ後も取引が続くことを、新しい経営者とともに伝える段取りを用意しておくと、混乱を抑えられます。

よくある質問

Q. 借入が多いと、そもそも買い手は見つかりませんか。 A. 借入の額だけで判断されるわけではありません。その借入が何を生んでいるのか、返済が事業の利益でまかなえているのかが見られます。中身を整理して説明できる状態にしておくことが大切です。

Q. 譲渡代金で借入を返してしまったほうがよいのでしょうか。 A. 株式譲渡か事業譲渡か、担保や保証がどう付いているかによって適切な形は変わります。手取りや税務にも影響しますので、顧問税理士や専門家と全体を見て判断してください。

Q. 社長個人が会社に貸しているお金はどうなりますか。 A. 会社にとっては負債ですので、返済するのか、譲渡に際して整理するのかを事前に決めておく必要があります。扱いによって手取りも変わるため、早めに論点として出しておきましょう。

Q. 債務超過に近い状態でも譲渡はできますか。 A. 一概には言えませんが、事業に稼ぐ力があれば道が開けることはあります。ただし進め方はより慎重な設計が必要になりますので、早い段階で専門家に相談することをおすすめします。

Q. 保証が外れたことは、どうやって確認すればよいですか。 A. 口頭のやり取りだけで済ませず、金融機関から書面で確認を得るのが確実です。引き継ぎ後の手続きとして、期日を決めて確認するところまでを段取りに入れておきましょう。

まとめ

会社の借入金は、株式ごと譲る場合は会社に紐づいて買い手に引き継がれるのが基本で、事業だけを譲る場合は引き継ぐ範囲を個別に取り決めます。個人保証は自動では消えませんが、金融機関との協議を通じて解除に向けた道を探れます。借入があること自体が売却の妨げになるとは限りません。

最初の一歩は、借入とリース、役員借入金、そして保証と担保の状況を一枚の表にまとめてみることです。それだけで、自分が何を心配していたのかがはっきりし、誰に何を相談すべきかが見えてきます。

残債や保証の扱いは個別性が高く、金額や条件を一般論で断定することはできません。だからこそ、早めに専門家へ相談し、自社の状況に合った進め方を描くことが重要です。株式会社フォーバル 自動車アフターマーケットチームは、相談無料・秘密厳守で、借入や保証の不安に寄り添いながら承継をお手伝いします。