営業許可の基本

食品衛生法では、公衆衛生に与える影響が著しい営業について、都道府県知事等の許可を受けることを求めています。許可は「営業者」と「施設」の組み合わせに対して与えられます。

この「営業者と施設の組み合わせ」という点が、承継の場面で決定的に効いてきます。営業者が変われば、原則として新たな手続きが必要になるからです。

許可の棚卸シート

承継を考え始めたら、まずこの6行を埋めてください。1日で終わり、費用もかかりません。

確認することどこで確かめるかずれていたときに起きること
許可の業種と範囲許可証と、実際の製造品目の一覧範囲外の製造が判明すると、是正まで出荷できないことがある
有効期限許可証更新漏れは営業の停止に直結する
施設の現況許可申請時の図面と、現在の工場増改築・設備入替の届出漏れ。買収監査で必ず突き合わされる
食品衛生責任者選任の届出と、在籍状況不在期間が生じると指摘対象になる
指導・処分の履歴社内の記録、保健所とのやり取り開示していないと、後で発覚したときの影響が大きい
許可証の原本保管場所紛失していると、承継の手続きで足止めになる

埋めてみると、たいてい3行目か1行目でずれが見つかります。どちらも「悪意なく、少しずつ実態が動いた」結果です。だからこそ自分では気付きにくく、買収監査で初めて表に出ます。

1. 自社がどの業種に当たるか

許可が必要な業種は法令で定められています。食品製造業では、菓子製造業、そうざい製造業、食肉製品製造業、水産製品製造業、清涼飲料水製造業、乳製品に関する業種などが該当します。

注意すべきは、製造している品目が増えたときに、許可の範囲を確認したかという点です。新しい商品を始めた際に確認が漏れ、許可の範囲外の品目を製造していた——これは買収監査で実際によく見つかります。

許可が不要でも届出が必要な業種もあります。判定は営業許可が要る業種はどれかと営業許可と営業届出の違いをご覧ください。

許可の範囲と製造品目がずれる、典型的な場面

製造している品目が許可の範囲を超えるずれは、次のような場面で起きています。

  • 新商品を始めたとき:既存の設備で作れたため、許可の範囲を確認しないまま製造を開始した。
  • 季節商品を出したとき:年に数週間だけ作る品目で、通常の商品と種類が違っていた。
  • OEMを受託したとき:取引先の依頼で、自社では扱ってこなかった種類の製品を請け負った。
  • 通販向けに形態を変えたとき:小分け、詰め合わせ、冷凍への切り替えなど、加工の内容が変わった。
  • 取り扱いを広げたとき:製造だけだった工場で、仕入れた商品の小分けや包装を始めた。

いずれも売上を伸ばす動きとして自然なものです。問題は、商品を増やす判断と、許可の範囲を確認する手順が結びついていないことにあります。新しい品目を立ち上げる手順の中に「許可の範囲の確認」を1項目入れておくだけで、この種のずれは起きなくなります。

すでにずれている可能性がある場合は、隠さず管轄の保健所に相談してください。自主的に申し出て是正するのと、監査や立入で指摘されるのとでは、その後の扱いが変わります。

2. 施設基準

許可を受けるには、施設が基準に適合している必要があります。基準は法令で定められ、都道府県等の条例で具体的な内容が定められている部分もあります。

一般的に確認される観点は次のとおりです。

  • 区画の分離(原料の受入、製造、包装、保管、出荷の動線)
  • 床・壁・天井の材質と清掃のしやすさ
  • 手洗い設備の位置と数
  • 給排水と便所の設置
  • 換気、照明、防虫・防そ
  • 器具・容器の洗浄設備
  • 温度管理が必要な設備と、その計測手段

増改築や設備の入れ替えを行った場合、変更の届出が必要になることがあります。長年の間に手を入れた工場では、届出が漏れているケースがあります。施設基準の考え方をご覧ください。

施設に手を入れたときの届出

長く操業している工場ほど、少しずつ手が入っています。次のような変更は、届出が必要になることがあります。

  • 建屋の増築、区画の追加や変更
  • 製造ラインの入れ替え、能力の変更
  • 冷蔵・冷凍設備の増設や更新
  • 手洗い設備、給排水、換気の変更
  • 原料の受入や出荷の動線の変更

「工事のときに業者が届け出てくれたはず」と考えていたが、実際には出ていなかった——という形で漏れが残ります。許可申請時の図面と現在の工場を並べて見るのが、いちばん早い確認方法です。図面が見つからない場合は、その時点で保健所に相談してください。

あわせて、変更の記録を残す運用を作っておくと、次の更新や承継のときに楽になります。工事の内容、実施時期、届出の有無を1枚に積み上げていくだけで十分です。

3. 食品衛生責任者

施設ごとに食品衛生責任者を定める必要があります。資格の要件があり、変更した場合は届出が必要です。

経営者が兼任している会社では、代表交代や相続の際に不在になるリスクがあります。複数人が資格を持っている状態が望ましい形です。食品衛生責任者の要件と交代の手続きをご覧ください。

食品衛生責任者を1人に依存しない

施設ごとに選任が必要な役割ですが、経営者本人が兼任している会社が少なくありません。この状態には2つのリスクがあります。

  1. 代表交代や相続のとき、不在期間が生じる:承継のタイミングで慌てて資格を取ることになります。
  2. 日常の運用が止まる:本人が不在の日に判断できる人がいないと、現場が自己流で動きます。

対策は単純で、複数の従業員に資格を取ってもらうことです。講習の受講で要件を満たせる形が一般的で、費用も限られます。後継者候補や工場長が持っていれば、承継の場面でそのまま引き継げます。

承継の準備として費用対効果が高い項目のひとつです。数万円と数日で、承継時の足止めをひとつ減らせます。

4. 更新

営業許可には有効期間があり、期間満了前に更新の手続きが必要です。有効期間は業種や自治体によって異なります。

承継の時期と更新の時期が重なると、手続きが錯綜します。許可証の有効期限を一覧にして管理することをおすすめします。営業許可の更新を参照してください。

5. 承継のときにどうなるか

ここが最も重要です。承継のスキームによって扱いが根本的に変わります。

スキーム営業許可の扱い
株式譲渡会社は同じなので継続(代表者変更の届出が必要な場合あり)
親族内・社内承継同上
事業譲渡営業者が変わるため、原則として新たな手続きが必要
会社分割・合併承継に関する規定や自治体の運用による。要確認
個人事業から法人へ営業者が変わるため、原則として新たな手続きが必要

事業譲渡の場合、許可が下りるまで製造できません。この期間をどう扱うかが、スケジュール全体を決めます。事業譲渡のときの営業許可と営業許可は引き継げる?をご覧ください。

事業譲渡で「作れない期間」をどう扱うか

事業譲渡や個人事業からの承継では、営業者が変わるため原則として新たな手続きが必要になります。許可が下りるまで製造できないため、この空白をどう埋めるかが計画の中心になります。考え方は次のとおりです。

  • 手続きを前倒しする:譲受側の申請を、契約の締結と並行して進めます。施設が基準に適合していれば、審査の期間が読めます。
  • 引き渡しの時期を審査に合わせる:期日を先に決めてしまわず、許可の見通しが立ってからクロージング日を確定します。
  • 在庫で橋を架ける:日持ちする品目であれば、停止期間分を事前に製造しておく方法があります。賞味期限と保管能力の範囲内で計画します。
  • 取引先に事前に伝える:欠品が避けられない場合、直前の連絡は取引そのものを失います。事情を伏せたまま調整するより、時期を早めに共有するほうが関係を保てます。

いずれの方法をとるにせよ、審査にどれくらいかかるかを管轄の保健所に確認するのが最初です。ここが読めないまま日程を組むと、計画全体が崩れます。株式譲渡が選ばれることが多いのは、この空白が生じないためです。

6. 承継前に確認すること

  1. 許可証の原本があるか(紛失していないか)
  2. 許可の業種・範囲が、実際に製造している品目と一致しているか
  3. 有効期限はいつか
  4. 施設に変更があった場合、届出をしているか
  5. 食品衛生責任者が適正に選任・届出されているか
  6. 行政からの指導・処分の履歴があるか

2番目でずれが見つかることが最も多くあります。方式を決める前に、管轄の保健所へ確認してください。

7. 衛生管理との関係

営業許可とは別に、HACCPに沿った衛生管理の実施が求められます。許可を得ていれば足りるわけではありません。

衛生管理計画を作り、記録を残し、検証する。この運用が継続していることが、承継の場面でも評価されます。HACCPに沿った衛生管理 完全ガイドをご覧ください。

行政の許可と、取引先が求めるものは別

混同されやすいところですが、次の3つは求めてくる相手も、満たすべき内容も違います。承継の場面では、それぞれ別に確認されます。

  • 営業許可:法令に基づき行政庁が与えるもの。これがなければ製造できません。
  • HACCPに沿った衛生管理:法令で実施が求められている取り組み。許可を得ていれば足りるわけではありません。
  • 取引先が求める認証・監査:民間の規格や、取引先独自の工場監査。取引の条件として課されるもので、行政の許可とは別の基準です。

買い手が見るのは3つ全部です。「許可があるから大丈夫」ではなく、取引を続けるために何を維持しなければならないかが問われます。特に、大手との取引がある工場では、取引先の監査に合格し続けられる体制かどうかが、事業の継続性そのものとして評価されます。

承継の準備としては、取引先ごとに「何を求められているか」「直近の監査でどう評価されたか」を一覧にしておくと、説明が早くなります。監査で指摘があった場合は、その後の対応まで含めて記録に残してください。

まず何をするか

許可証を取り出して、業種・範囲・有効期限を確認する。これだけなら今日できます。実際の製造品目と照らして違和感があれば、そこが最初の論点です。

よくある質問

Q. 許可の範囲外の品目を製造していたと分かりました。どうすればよいですか。 A. まず管轄の保健所に相談してください。自主的に申し出て是正する形と、指摘を受けて対応する形では、その後の扱いが変わります。並行して、該当品目の出荷をどうするか、取引先にどう伝えるかを社内で決めておいてください。

Q. 許可証を紛失しています。 A. 管轄の保健所に相談してください。再交付の手続きがあります。承継の場面では原本の提示を求められることがあるため、気付いた時点で手続きを進めてください。あわせて、保管場所を決め直しておくことをおすすめします。

Q. 更新と承継の時期が重なりそうです。 A. 手続きが同時に進むと、現場と事務の負担が集中します。可能であれば、更新を先に済ませてから承継の手続きに入る形にしてください。ずらせない場合は、早い段階で保健所と専門家に段取りを相談します。

Q. 複数の工場がある場合、許可はどうなりますか。 A. 許可は施設ごとに必要です。工場ごとに業種・範囲・有効期限・食品衛生責任者が異なることがあるため、施設単位で棚卸シートを作ってください。1つの工場だけ確認して安心してしまう例があります。倉庫や直売所を併設している場合も、それぞれ確認が要ります。

Q. 個人事業から法人化する場合も、手続きが要りますか。 A. 営業者が個人から法人へ変わるため、原則として新たな手続きが必要になります。法人化のタイミングと承継のタイミングを同時に進めると手続きが重なるため、順序を先に設計してください。

※ 営業許可・衛生管理・食品表示の具体的な取扱いは、法令の改正や管轄行政庁の運用によって異なります。実行にあたっては、管轄の保健所等および専門家に必ずご確認ください。