定款は会社の土台となるルール

ガソリンスタンド(SS)を運営する会社にも、必ず定款があります。定款は会社の目的や商号、機関のあり方、株式に関する事項などを定めた、いわば会社の憲法のような存在です。設立時に作ったまま、内容をほとんど見直していないという会社も少なくありません。

普段の営業では定款を意識する場面は多くありませんが、事業を誰かに引き継ぐとなると話は別です。承継やM&Aの手続きは定款に沿って進むため、内容が実態と合っていないと、思わぬところで手続きが滞ることがあります。だからこそ、承継を意識し始めた早い段階で、一度目を通しておく意味があります。

設立時のまま放置されやすい理由

多くのガソリンスタンドは、創業から長い年月を経て今日に至っています。その間、事業内容や取り扱う商材、店舗の体制は少しずつ変わってきたはずです。ところが定款は、法律で見直しが義務づけられているわけではないため、設立時の内容のまま眠っていることがよくあります。

たとえば、事業目的の欄に現在行っている事業が記載されていなかったり、逆にすでにやめた事業が残っていたりします。こうしたずれは日常業務では問題になりにくいものの、引き継ぎや外部の相手との取引の場面で確認を求められ、対応に時間がかかる原因になりがちです。

放置されるのは、日々の営業に影響しないからです。定款が古くても、今日の給油は問題なくできます。だから後回しになり、気づけば数十年が経っています。

影響が出るのは、会社の形を動かそうとしたときだけです。そしてそのときには、たいてい時間がありません。承継、売却、役員の交代。動こうとした瞬間に、ここが引っかかります。

定款の記載を実態に合わせて確認する

見直しの第一歩は、定款の記載が現在の会社の実態と合っているかを確認することです。事業目的、商号、本店所在地といった基本項目から、現状と食い違っていないかを丁寧にたどっていきます。

確認しておきたい主な項目

  • 事業目的が現在の事業内容を反映しているか
  • 本店所在地や商号が登記と一致しているか
  • 発行できる株式の総数や種類に関する定め
  • 株式の譲渡に関する取り決め

実態と合わない箇所が見つかった場合は、必要に応じて整備を検討します。整備には所定の手続きが伴うため、承継の直前に慌てて進めるより、余裕のある段階で少しずつ整えておくほうが安心です。

株式に関する定めを見直す

承継やM&Aで特に重要になるのが、株式に関する定めです。多くの中小企業では、株式を自由に売買できないよう、譲渡に会社の承認を必要とする定めが置かれています。これは外部への流出を防ぐうえで意味のある仕組みですが、いざ引き継ぎを進める際には、承認の手続きを踏む必要が出てきます。

誰が承認機関になるのか、どのような手順で承認するのかを、あらかじめ定款で確認しておくことが大切です。また、株式が分散している場合には、承継の前に整理や集約を検討することもあります。株式にまつわる定めと現状を早めに把握しておくことで、引き継ぎ時の意思決定がスムーズになります。

機関設計を引き継ぎやすい形に整える

機関設計とは、取締役や取締役会、監査役といった、会社の意思決定や監督を担う仕組みの組み合わせのことです。ガソリンスタンドを長く経営者一人で切り盛りしてきた会社では、機関の構成が現在の規模や体制に必ずしも合っていないことがあります。

承継後の新しい体制を見据えると、意思決定の流れがわかりやすく、後継者や新しい経営陣が動きやすい機関設計になっているかどうかは重要な観点です。引き継ぐ相手の状況によって望ましい形は変わるため、専門家に相談しながら、実態に合った設計を検討していくとよいでしょう。

許認可や契約との整合も意識する

ガソリンスタンドは、危険物の取り扱いをはじめとするさまざまな許認可のもとで営業しています。定款の事業目的が実際の許認可の内容と整合していないと、引き継ぎの手続きや相手方の確認の際に説明を求められることがあります。

また、取引先や金融機関との契約のなかには、会社の基本的な事項に関する情報の提示を求めるものもあります。定款が最新の実態を反映していれば、こうした場面でも落ち着いて対応できます。定款の見直しは、単なる形式の整備にとどまらず、対外的な信頼を支える土台づくりでもあるのです。

この整合は、片方向ではありません。定款を変えたことで許認可の届出が必要になることもあれば、許認可の都合で定款の記載を確かめる必要が出ることもあります。どちらかを動かすときは、もう一方への影響を確かめる習慣をつけてください。

早めに整えておくことで得られる安心

定款の見直しは、承継やM&Aを進めるうえで目立つ作業ではありません。しかし、内容が整っていることは、手続きの円滑さや相手方からの信頼につながります。実態と合わない点を早めに把握し、必要な整備を落ち着いて進めておくことで、いざ引き継ぎという段階で慌てずに済みます。

どこをどう見直せばよいか判断が難しいと感じたら、業界に詳しい専門家に相談することをおすすめします。私たち株式会社フォーバル 自動車アフターマーケットチームは、定款をはじめとする会社の足元の整備から、承継・M&Aの実務までを一貫して支援しています。相談無料・秘密厳守で、最初の一歩からご一緒します。

まず、今の内容を読む

見直しの前に、今どうなっているかを読むところから始めてください。設立以来、一度も読み返していないという会社は珍しくありません。

読むときは、次の点に印をつけてください。

  • 会社の目的として、何が書かれているか
  • 今行っている事業が、そこに含まれているか
  • 逆に、書かれているが行っていない事業はないか
  • 本店の所在地が、実態と合っているか
  • 役員の人数や任期の定めが、実態と合っているか
  • 株式に関する定めがどうなっているか

二つ目が、実務で問題になりやすい点です。併設の事業を始めたのに、目的に追加していないことがあります。この状態が直ちに営業を妨げるとは限りませんが、許認可の手続や、承継の場面で指摘されることがあります。

五つ目については、定めた人数や任期と、実際の役員の状態が食い違っていることがあります。登記の内容とあわせて確かめてください。

承継の場面で効いてくる箇所

定款のなかで、承継に直接影響するのは限られた部分です。優先して確認すべき箇所を挙げます。

  • 株式の譲渡に、会社の承認が必要とされているか
  • その承認を、誰がどう行うと定めているか
  • 株券を発行する定めになっているか
  • 相続などで株式が移った場合について、定めがあるか
  • 役員の選び方や、任期がどうなっているか
  • 会社の意思決定の仕組みがどうなっているか

一つ目と二つ目は、株式を動かす際に必ず関わります。手続の順序が定款によって決まるため、ここを確認せずに進めることはできません。

三つ目については、定めがあるのに実際には発行していない、という状態が起こり得ます。この場合、株式を移す際の手続に影響します。整理が必要かどうかを、司法書士に確認してください。

なお、どういう定めが自社に適しているか、変更にどういう手続が必要かは専門的な判断を要します。本記事は、どこを見るかの観点までにとどめます。必ず司法書士や弁護士にご確認ください。

変えるときに考えること

内容を変える場合、手続が必要になります。次を確かめてから進めてください。

  • どういう手続が必要か(株主総会での決議など)
  • 登記が必要な事項かどうか
  • 費用がどれくらいかかるか
  • 変更によって、他に影響が出ないか
  • いつまでに済ませる必要があるか

四つ目については、注意が要ります。ある箇所を変えたことで、許認可の届出が必要になることがあります。会社の目的や所在地を変える場合は、許認可の側にも影響がないかを確かめてください。

一つ目については、株主が確定していることが前提になります。名簿と実態がずれている状態では、そもそも決議が有効に成立するかという問題が生じます。先に整理が必要です。名義株の整理をご覧ください。

一度にすべてを変えなくてよい

見直してみると、直したい箇所が複数見つかることがあります。優先順位をつけて進めてください。

  • 承継の手続を妨げるもの … 最優先
  • 実態と明らかに違うもの … 早めに
  • あったほうが望ましいもの … 時期を見て
  • 今は困っていないもの … 後回しでよい

一つ目については、そこが解決しないと承継が進まないためです。株式の移転に関わる定めや、意思決定の仕組みがこれに当たります。

四つ目を無理に変える必要はありません。手続にも費用にも手間がかかります。変える理由が説明できるものから順に進めてください。

いつ着手するか

この作業は、次の理由から早いほうが有利です。

  • 変更には手続の期間が要る
  • 株主の確定が先に必要になる場合がある
  • 承継の話が具体化してからでは、時間が足りない
  • 買い手の調査では、必ず確認される
  • 問題が見つかった場合、直す時間が要る

四つ目については、定款は最初に求められる資料の一つです。そこに実態と合わない記載があれば、他の管理も疑われます。逆に、整っていれば、それだけで会社の状態を示すことになります。

そして、この作業は承継の予定が具体的でなくても始められます。読んで、実態と照らし、直したい箇所を書き出す。ここまでは費用もかかりません。売ると決める前にできる準備もあわせてご覧ください。

どこにあるかを、まず確かめる

読み返そうとして、そもそも見つからないという場合があります。次を当たってください。

  • 会社の重要書類を保管している場所
  • 設立当時に依頼した司法書士や税理士の事務所
  • 顧問の税理士が控えを持っている場合がある
  • 金融機関に提出した控えが残っていることがある
  • 公証役場に保管されている場合がある

見つかった場合も、それが最新のものかを確かめてください。過去に変更していれば、古い版が手元に残っていることがあります。登記の内容と照らして確認するのが確実です。

そして、見つけたら保管場所を決めて、社内の誰が知っているかを明確にしてください。次に必要になるのは、承継の場面かもしれません。そのとき探し回ることのないようにしてください。

登記の内容とあわせて確認する

定款と登記は別のものですが、内容が連動する部分があります。あわせて確かめてください。

  • 役員の登記が、実態と合っているか
  • 任期が切れたまま、更新されていないことはないか
  • 本店の所在地が、実際の場所と一致しているか
  • 会社の目的が、定款と登記で揃っているか
  • 過去の変更が、すべて登記されているか

二つ目は、実際によく見つかります。役員の任期が満了しているのに、手続がされないまま時間が経っていることがあります。これは承継の場面で必ず指摘されます。

登記の内容は、法務局で取得できる書類で確認できます。費用も手間もわずかです。まず取得して、定款と照らしてみてください。情報と書類の整備もあわせてご覧ください。

まとめ

ガソリンスタンドの定款は、設立時のまま見直されずに眠っていることが少なくありません。承継やM&Aを見据えるなら、事業目的や株式の定め、機関設計が現在の実態に合っているかを、早めに確認しておくことが大切です。

定款の整備には手続きが伴うため、余裕のある段階から少しずつ進めておくと安心です。判断に迷う点は一人で抱え込まず、専門家の助言を得ながら、引き継ぎやすい土台を整えていきましょう。