持株会社とは何か
持株会社とは、事業を直接営むのではなく、他の会社の株式を保有することを主な役割とする会社です。事業を営む会社の上に持株会社を置き、経営者は持株会社を通じて各事業会社を束ねる形になります。グループ全体を一つの視点から見渡しやすくなるのが特徴です。
ガソリンスタンドを含む複数の事業を営む場合、それぞれの事業会社を持株会社の傘下に置くことで、資産と経営の関係を整理できます。経営者が保有するのは持株会社の株式となり、承継の対象が分かりやすくまとまります。全体像を捉えやすくなることが、承継の準備にも役立ちます。
言葉の印象から大きな仕組みに聞こえますが、要は「事業を行う会社の株式を、別の会社が持つ形」です。規模の大小は関係ありません。一店舗の会社でも作ることはできます。できるかどうかと、するべきかどうかは別の話です。
本記事では、制度の細かな要件や税務上の効果には触れません。それらは要件によって結果が変わり、制度の見直しもあるためです。ここでは、経営としてどう判断するか、何を確かめてから決めるかという観点を扱います。
承継における持株会社の意義
承継の観点から持株会社を見ると、いくつかの意義があります。まず、経営権を持株会社に集約することで、後継者への引き継ぎがまとまりやすくなります。各事業会社の株式を個別に承継するよりも、持株会社の株式を通じてグループ全体をまとめて引き継ぐことができます。
また、持株会社を置くことで、経営と資産の関係を整理しやすくなります。事業ごとの資産や収益を分けて把握でき、承継の設計がしやすくなります。将来的に一部の事業を別の形で引き継ぐといった柔軟な対応も考えやすくなり、選択肢が広がります。
経営を整理する視点
持株会社は、承継だけでなく日々の経営を整理する視点からも意味があります。グループ全体の方針を持株会社が定め、各事業会社がそれぞれの現場に集中するという役割分担が明確になります。経営の全体像を俯瞰しながら、個々の事業を運営していく体制が整います。
ガソリンスタンド事業においても、現場の運営と全体の経営判断を切り分けることで、それぞれに集中しやすくなります。燃料需要の変化やEVへの転換といった業界の大きな流れに向き合ううえでも、全体を見渡せる体制は役立ちます。経営を整理しておくことが、変化への備えにもつながります。
整理という言葉には注意が要ります。組織の形を分けることは、整理であると同時に複雑化でもあります。関係者が増え、手続が増え、判断の経路が長くなります。それに見合う目的があるかどうかが、判断の分かれ目です。
承継準備としての位置づけ
持株会社化は、それ自体が目的ではなく、承継と経営を整理するための準備として位置づけられます。持株会社という器を整えたうえで、生前贈与や遺言、他の対策と組み合わせて承継を進めていきます。持株会社はあくまで土台づくりの一環です。
承継の全体像を描いたうえで、持株会社がどこに位置づくのかを考えることが大切です。仕組みを整えることだけに目を向けるのではなく、その先の承継までを見据えて設計することで、実効性のある準備になります。長い目で計画的に進める姿勢が求められます。
進めるうえでの留意点
持株会社の活用を検討するにあたっては、いくつか注意すべき点があります。仕組みが複雑で影響も広く及ぶため、慎重な検討が欠かせません。
- グループ全体の運営体制を整えること
- 税務や法務の取り扱いを踏まえること
- 自社の規模や事業構成に合うか見極めること
- 承継全体の設計のなかに位置づけること
持株会社の仕組みは、すべての会社に適しているわけではありません。事業の数や規模、経営者の考えによって、向き不向きがあります。仕組みを整えること自体に手間がかかるため、自社にとって本当に必要かを見極める姿勢が大切です。取り扱いの適否は専門家の確認を得ながら進めましょう。
あわせて、判断を急がされていないかも確かめてください。「今のうちに」という言葉で検討を促されることがありますが、組織の形を変える判断に、締切に追われて決めてよいものはありません。期限があるように見える場合は、その期限が何によるものかを自分で確かめてください。
専門家に相談すべき理由
持株会社の活用は、税務や法務が複雑に絡み合うテーマです。取り扱いは個々の状況によって大きく異なり、判断を誤ると意図した効果が得られないこともあります。だからこそ、自己判断で進めるのではなく、税理士や専門家に相談することが欠かせません。具体的な取り扱いや自社への適合性については、必ず専門家に確認するようにしましょう。
私たち株式会社フォーバル 自動車アフターマーケットチームは、ガソリンスタンドをはじめとするガソリンスタンド(SS)業界の承継を支援しています。専門家と連携しながら、業界の実情を踏まえた経営と承継の整理をお手伝いします。まずはお気軽にご相談ください。
この形が向く場面、向かない場面
持株会社を置く形は、どの会社にも適しているわけではありません。検討する前に、自社がどちらに近いかを確かめてください。
検討する意味がありそうな場面
- 複数の事業や店舗があり、それぞれの位置づけを整理したい
- 所有と経営を分けて考えたい事情がある
- 将来、一部だけを譲る可能性がある
- 株主が複数いて、整理したい
慎重に考えたほうがよい場面
- 店舗が一つで、事業も単一である
- 管理の手間を増やす余裕がない
- 目的が税の扱いだけになっている
- 提案されたから検討している
会社が増えれば、決算も申告も、それぞれ必要になります。顧問への費用も、事務の手間も増えます。規模に対してこの負担が重すぎないかは、最初に確かめるべき点です。
整理されること、されないこと
この形にすると何が変わるのかを、正確に押さえておいてください。期待しすぎると、後で落胆します。
- 整理されうる … 株式の持ち方、事業ごとの位置づけ、経営の役割分担
- 整理されない … 現場の属人化、記録の不備、人手不足
- むしろ増える … 事務と管理の手間、判断の階層
二つ目が重要です。組織の形を変えても、現場の課題は残ります。社長に判断が集中している状態、手順が文書になっていない状態、これらは持株会社を置いても解決しません。承継の準備としては、そちらのほうが先です。社長依存の解消もあわせてご覧ください。
三つ目については、判断の階層が増えることで、かえって決められなくなる場合があります。誰が何を決めるのかを、形を変える前に整理しておいてください。
この業種で確かめること
ガソリンスタンドを営む会社でこの形を検討する場合、次の点を必ず確認してください。
- 許認可を持つ会社がどこになるのか
- その会社の役員構成が変わる場合、届出が必要か
- 設備や土地の名義を、どの会社が持つのか
- 元売や仕入先との契約が、どの会社の名義になるのか
- 金融機関との取引と、保証の扱いがどうなるか
- 保安に関わる体制が、どの会社で組まれるのか
一つ目と二つ目は、検討の最初に確認すべき事項です。形を決めてから許認可の扱いを確かめると、決めたことを組み直すことになります。所管の窓口に、想定している形を伝えて確認してください。
五つ目については、金融機関にも早い段階で相談してください。会社の構成が変わることは、融資や保証の前提が変わるということです。事後に伝えると、関係がぎくしゃくします。借入金は承継・売却でどう引き継がれるかもあわせてご覧ください。
検討の順序
手戻りを避けるため、次の順で進めてください。
- 何を実現したいのかを、具体的に言葉にする
- それが、組織の形を変えずに実現できないかを確かめる
- 許認可の扱いを、所管の窓口に確認する
- 税務上の扱いを、税理士に確認する
- 金融機関に相談する
- そのうえで、設計に入る
二つ目を飛ばさないでください。目的の多くは、組織を変えずに達成できることがあります。株式の持ち方を整理する、事業ごとの数字を分けて管理する、契約の名義を整える。これらで足りるなら、組織を変える必要はありません。
そして、税務上の扱いは要件によって大きく変わり、制度の見直しもあります。本記事では具体的な要件や効果には触れません。必ず税理士と検討してください。
形より先に整えておくこと
組織の形を検討する前に、済ませておくと後が楽になることがあります。
- 株主名簿と実態が一致しているかの確認
- 名義だけの株主が残っていないかの整理
- 事業に使う資産のうち、個人名義のものの把握
- 会社と個人の資金の貸し借りの整理
- 事業ごとの数字を分けて出せる状態にすること
一つ目と二つ目が整っていないと、そもそも組織の形を変える手続が進みません。株主が誰かを確定させる作業は、時間がかかることがあります。先に着手してください。名義株の整理もあわせてご覧ください。
五つ目については、組織を変えるかどうかに関わらず必要な作業です。そして、この作業をした結果、そもそも組織を変える必要がないと分かることもあります。まずここから始めてください。
置いた後の運営を、想像できるか
形を決める前に、日々の運営がどうなるかを具体的に考えてください。次の問いに答えられるかが目安です。
- 各社の代表は誰になるのか
- 役員報酬は、どこからどう出すのか
- 従業員は、どちらに所属するのか
- 事務や経理を、どこで行うのか
- 会社間でお金や人を動かすとき、どういう取り決めが要るのか
- 取締役会や株主総会を、それぞれで開くことになるのか
五つ目は、見落とされやすい実務です。同じグループでも、会社が別なら取引として扱われます。人を貸す、場所を使わせる、資金を融通する。いずれも取り決めと記録が必要になります。
六つ目については、手続そのものが増えます。これまで一社分で済んでいたものが、二社分になります。誰がその事務を担うのかを、決めておいてください。
やめるときのことも考えておく
組織の形は、一度変えると戻すのが大変です。次の場合にどうするかを、想定しておいてください。
- 想定していた承継が、実現しなかった場合
- 事業を第三者に譲ることになった場合
- 管理の負担が重すぎると分かった場合
- 制度の扱いが変わった場合
二つ目は、実際に起こり得ます。親族への承継を前提に組織を整えたが、結局は第三者に譲ることになった、という展開です。その場合、整えた形が売却にとって有利に働くとは限りません。買い手にとって分かりにくい構造は、条件の交渉で不利になることがあります。
したがって、承継の相手が定まっていない段階で、複雑な形にしないほうが安全です。単純な形のほうが、どの道に進むことになっても対応しやすくなります。
この点も含めて、組織の形を変えるかどうかは、承継の方針が固まってから判断するのが確実です。売ると決める前にできる準備もあわせてご覧ください。
まとめ
持株会社の活用は、経営権を集約し、経営と資産の関係を整理することで、承継をまとめやすくする手立てです。ガソリンスタンドの承継では、業界の実情を踏まえながら、承継全体の設計のなかに位置づけることが大切です。
ただし、仕組みは複雑であり、自社に合うかどうかは状況によって変わります。一人で抱え込まず、専門家に確認しながら、承継準備の一環として計画的に検討していきましょう。