個人経営のガソリンスタンドを譲るとき

個人事業には株式がありません。そのため会社ごと譲ることができず、事業譲渡の形をとることになります。設備、在庫、顧客、従業員との雇用契約を、ひとつずつ譲受側へ移していく手続きです。

この場合、危険物施設の許可と揮発油販売業の登録は、譲受側であらためて取得する必要があります。準備から取得までには相応の期間がかかるため、譲渡日はこのスケジュールに合わせて設計します。

個人経営のガソリンスタンドの売却では、土地建物も個人名義であることが多く、事業と不動産をまとめて譲るのか、不動産は残して賃貸するのかという選択も生じます。

有限会社のスタンドを譲るとき

有限会社は新規設立ができなくなりましたが、既存の会社は「特例有限会社」として存続しています。株式会社と同様に持分(株式)があるため、有限会社のガソリンスタンドの売却も株式譲渡で行えます。

実務上、株式会社との大きな違いはありません。ただし、株主名簿が整っていない、設立時の名義株がそのまま残っている、相続で持分が分散したまま把握できていない——こうした状態だと交渉が止まります。事前の確認が重要です。

会社譲渡という言い方について

ご相談のなかでは「会社譲渡」という言葉もよく使われます。ガソリンスタンドの会社譲渡といった場合、会社そのものを譲る意味で用いられており、実務上は株式譲渡(持分譲渡)を指すことがほとんどです。

一方、事業だけを切り出す事業譲渡とは、許認可・契約・税務の扱いがまったく異なります。「会社ごと譲りたいのか」「事業だけを譲りたいのか」をはっきりさせておくと、話が早く進みます。

株価算定の考え方

ガソリンスタンドの株価算定では、時価純資産を土台に、営業利益の数年分を加える方法がよく用いられます。中小企業のM&Aでは、この年買法と呼ばれる考え方が実務の中心です。

ガソリンスタンド固有の調整として、土地の含み益(または含み損)、地下タンクの将来撤去費用、老朽設備の更新見込みが加減されます。帳簿上の純資産をそのまま使うわけではない点に注意してください。

掛売り債権の回収可能性、灯油顧客の継続率といった非財務の要素も、営業利益の評価倍率に影響します。

税務上の違いを押さえる

株式譲渡と事業譲渡では、税金のかかり方が大きく異なります。

株式譲渡では、株主である個人に譲渡所得として課税されます。分離課税で税率は約20%です。一方、事業譲渡では対価を受け取るのは会社であり、法人税が課されます。そのうえで経営者個人が資金を受け取るには、役員退職金や配当といった形をとることになり、二段階で課税されます。

個人事業の譲渡では、資産の種類ごとに課税され、消費税の扱いも生じます。手取り額に直結する部分ですので、スキームを決める前に税理士を交えて試算しておいてください。

引退資金をどう設計するか

譲渡で得た対価は、引退後の生活を支える原資になります。ガソリンスタンドの引退資金を考えるうえで押さえたいのは、会社の資産と個人の資産が混ざりやすい業態だという点です。

土地が個人名義、借入に個人保証が付いている、社用車を私用にも使っている——こうした状態を整理しないまま譲渡すると、手取りの見通しが立ちません。役員退職金の活用を含め、税負担を抑えながら手元に残す設計を早めに検討してください。

個人保証については、譲渡を機に金融機関と交渉し、解除するのが通常の流れです。この見通しが立たないと成約に至らないため、早い段階での確認が必要です。