時価純資産とは資産の裏づけを見る考え方
時価純資産とは、会社が持つ資産から負債を差し引いた正味の価値を、いまの時価に置き換えて捉える考え方です。決算書に載っている資産の金額は、多くの場合、取得したときの価格をもとに記録されています。しかし、時間の経過とともに、その実際の価値は帳簿上の金額と離れていくことがあります。時価純資産は、こうしたずれを見直し、現時点での実勢に近い姿を映し出そうとするものです。
この考え方は、会社にどれだけの「財産の裏づけ」があるかを見る視点だといえます。稼ぐ力が事業の流れを見るものだとすれば、時価純資産は、いま保有している資産と負債の実態をとらえる見方です。時価純資産は、企業価値を多面的に捉えるうえで欠かせない一つの柱になります。
言葉としては難しく響きますが、考え方は単純です。今持っているものを実際の価値で数え直し、そこから負っているものを差し引く。残った分が、資産の裏づけということになります。
なぜ帳簿の数字だけでは足りないのか
決算書に記された資産の金額は、必ずしも今売買したときの価値を表しているわけではありません。取得した当時の価格のまま記録されているものもあれば、年々の費用として価値を割り振ってきた結果、帳簿上は小さく見えているものもあります。逆に、実際の市場では帳簿以上の価値を持つ資産もあります。
こうした帳簿と実勢のずれをそのままにしておくと、会社の本当の姿を見誤ってしまいます。とりわけ土地のように長く保有する資産では、取得時と現在で価値が大きく変わっていることも少なくありません。だからこそ、資産と負債を時価で見直し、実態に近づける作業が必要になるのです。
足りない理由は、帳簿が過去の記録だからです。買ったときの金額をもとに、決められた方法で減らしていく。実際にいま売れる金額とは、はじめから別のものとして作られています。
この差は、長く事業を続けているほど大きくなります。何十年も前に取得した土地、繰り返し手を入れてきた設備。時間が経つほど、帳簿と実態は離れていきます。
土地と設備の評価が持つ意味
ガソリンスタンドは、事業を営むために広い土地や大きな設備を必要とする業態です。そのため、時価純資産という見方において、土地と設備の評価はとりわけ大きな意味を持ちます。所有している土地であれば、いまの実勢に照らしてどれほどの価値があるかが、正味の価値を大きく左右します。
一方で、設備については注意も必要です。地下タンクや計量機といった設備は、事業に不可欠であっても、そのまま他に転用できるとは限りません。状態や残りの使用見通し、更新の必要性なども踏まえて評価する必要があります。土地は価値を押し上げる要素になりやすい反面、設備は将来の負担として見られることもあり、両面から捉えることが大切です。
設備については、経理上の残り価値と、実際にあと何年使えるかがまったく別のものだという点を押さえておいてください。帳簿上ほぼ価値がなくても現役で使えている設備もあれば、その逆もあります。
この業種では、土地の比重が大きくなりやすい傾向があります。だからこそ、土地が誰の名義で、どういう条件で使われているのかを先に確かめておく必要があります。借りている場合は、この見方そのものが変わります。
負債も時価で見直す
時価純資産の考え方では、資産だけでなく負債も見直しの対象になります。帳簿には表れていない将来の負担や、まだ確定していない支払いの見込みなどがあれば、それらも織り込んで正味の価値を捉える必要があります。資産の側だけを時価に直しても、負債の側を見落とせば、実態からかけ離れた姿になってしまいます。
ガソリンスタンドの場合、跡地の環境面に関わる将来の負担など、業界特有の論点が負債の側に関わることもあります。こうした点は表面的な帳簿からは見えにくく、専門的な視点で丁寧に確認することが欠かせません。資産と負債の両方を時価でとらえてこそ、正味の価値が正しく見えてきます。
見直すときは、借り入れの残りだけでなく、保証や契約上の義務も含めて洗い出してください。書面を確かめないと出てこないものがあります。記憶に頼ると、必ず漏れます。
あわせて、金融機関との取り決めの内容も確かめておいてください。承継の形によっては、返済や保証の扱いが変わることがあります。ここは早い段階で相談しておきたい部分です。
稼ぐ力と組み合わせて価値を捉える
時価純資産は、企業価値を捉えるための一つの見方ですが、これだけで価値のすべてが決まるわけではありません。会社の価値は、いま持っている資産の裏づけと、これから生み出していく稼ぐ力の両面から成り立っています。資産の見方と稼ぐ力の見方を組み合わせることで、はじめて全体像に近づけます。
たとえば、資産を多く持っていても稼ぐ力が伴わなければ、その価値は十分に生かされていないかもしれません。逆に、稼ぐ力が高くても資産の裏づけが乏しければ、安定性の面で見られ方が変わります。両方の視点をあわせて捉えることが、納得のいく価値の理解につながります。
組み合わせると、自社がどちらの型に近いかが見えてきます。資産に厚みがあるが稼ぎが薄い店と、資産は少ないが稼げている店では、進める道も変わってきます。
どちらを重く見るかは、相手の目的によっても変わります。事業を続けたい相手は稼ぐ力を、別の使い道を考えている相手は資産の裏づけを重く見ます。だから、一つの数字が絶対ではありません。
自社の資産を正しく見える形にする
時価純資産という見方を自社に当てはめるには、保有する土地や設備、負債の実態を一つひとつ丁寧に確認する必要があります。どの資産をどう評価するか、見えにくい負担をどう織り込むかは、専門的な判断を要する部分が多く、経営者一人で進めるのは負担が大きいものです。
私たち株式会社フォーバル 自動車アフターマーケットチームは、ガソリンスタンド(SS)業界に特化して企業価値向上を支援しています。自社の資産や負債の実態をどう捉え、価値をどう見える形にしていくかを、経営者の目線に立って一緒に整理します。相談無料・秘密厳守で、最初の一歩からお手伝いします。
見える形にする第一歩は、固定資産の台帳と現物を照らし合わせることです。載っているのにないもの、あるのに載っていないもの。ここを揃えてからでないと、価値を見直しても土台が狂います。
整えたものは、書いた形で残し、年に一度は見直してください。一度作って放置すると、数年で実態と離れます。更新し続けて初めて、判断に使える道具になります。
帳簿と実際が離れやすい項目
この考え方が必要になるのは、帳簿の数字と実際の姿がずれるからです。とくにずれやすい項目には、傾向があります。
古くから持っている土地、経理上はほとんど価値が残っていない設備、長く動いていない在庫、回収できていない売掛。どれも、帳簿の数字をそのまま信じると実態を見誤ります。
だから、まずは自社にこうした項目があるかを確かめてください。ずれが大きい項目から順に見ていけば、限られた手間で実態に近づけます。
見直すには、外の目が要る
実際の価値がいくらかは、自分では判断できません。土地であれば不動産に詳しい相手、設備であれば扱っている業者。それぞれの分野で見てもらう必要があります。
自己判断で「これくらいだろう」と置くと、交渉の場で覆されます。根拠のない数字は、示したこと自体が信用を損ないます。
費用と手間はかかりますが、承継を本気で考える段階になれば必要な作業です。どの範囲まで見てもらうべきかは、承継を扱う専門家と相談して決めるとよいでしょう。
負債の側にも、見えていないものがある
資産だけを見直して安心してはいけません。帳簿に載っていない、あるいは載っていても実態と違う負担があることがあります。
将来必要になる設備の後始末、従業員への支払い、保証の履行。こうしたものは、今すぐの支出ではないため意識されにくいのですが、引き受ける側は必ず見ます。
この業種では、地下の設備に関わる将来の負担が代表的です。どう扱うべきかは状況によりますので、税理士と設備の業者の双方に確かめておいてください。
この見方だけでは、決まらない
資産の裏づけから見る考え方は分かりやすいのですが、これだけで価値が決まるわけではありません。稼ぐ力がなければ、資産があっても事業としては成り立ちません。
実務では、この見方と稼ぐ力から見る見方の両方を並べ、その差をどう説明するかが議論になります。差が大きいほど、話し合う余地も大きくなります。
だから、一つの数字を示されて高い低いと感じる前に、どの見方から出たものかを確かめてください。見方が分かれば、なぜその数字なのかが理解できます。
見直した結果が、思わしくないとき
実際に見直してみると、思っていたより価値が小さいという結果が出ることがあります。土地の評価が想定より低い、設備がほとんど価値として見てもらえない。
ここで落胆して話を止めてしまうのは早計です。この見方は、価値を測る一つの角度でしかありません。稼ぐ力や、目に見えない部分での評価は別に立ちます。
そして、分かったこと自体に意味があります。どこに弱さがあるかが見えれば、手の打ちようがあります。知らないまま交渉に入って、そこを突かれるほうがよほど不利です。
会社と個人が混ざっていると、計算できない
資産の裏づけを見るには、何が会社のもので何が個人のものかがはっきりしている必要があります。ここが曖昧だと、そもそも計算が成り立ちません。
個人名義の土地を会社が使っている、会社名義の車を私用でも使っている、個人の資産を担保に入れている。長く続けてきた会社ほど、こうした状態が残っています。
だから、価値を見直す前に、この整理が必要になります。時間のかかる作業ですから、承継を意識したら早い段階で税理士に相談し、順序を決めて進めてください。
いつ見直すのが適切か
この作業は費用と手間を伴うため、頻繁にはできません。では、いつやるべきか。
一つは、承継や売却を具体的に検討し始めたときです。交渉に入る前に自社の姿を把握しておけば、示された数字を評価できます。
もう一つは、大きな判断を控えているときです。設備を入れ替えるか、事業を整理するか。こうした判断の前に自社の資産の姿が見えていれば、根拠を持って決められます。逆に、何も予定がないときに急いでやる必要はありません。
まとめ
時価純資産は、会社が持つ資産から負債を差し引いた正味の価値を、いまの時価に置き換えて捉える考え方です。帳簿上の金額と実勢のずれを見直し、会社の財産の裏づけを実態に近づけて見る視点だといえます。土地や設備を多く抱えるガソリンスタンドでは、とりわけ意味を持つ見方です。
大切なのは、この見方を稼ぐ力の視点と組み合わせ、資産と稼ぐ力の両面から企業価値を総合的に捉えることです。資産や負債の実態を正しく見える形にするには専門的な視点が欠かせません。迷ったら、業界に詳しい専門家とともに丁寧に整理していきましょう。