なぜ今、給油以外への備えが必要なのか
自動車の電動化は一気に進むというより、地域や車種によって段階的に広がっていくと考えられます。ガソリン車がすぐになくなるわけではありませんが、燃料販売だけに収益を依存していると、需要が細っていく局面で打つ手が限られてしまいます。早めに次の柱を育てておくことが、将来の安定につながります。
大切なのは、今ある給油や整備の事業を続けながら、少しずつEVに関わる仕事を取り込んでいく姿勢です。急な方向転換ではなく、地域のお客様の変化に合わせて対応の幅を広げていくイメージで捉えると、無理なく進められます。
EV点検・整備への入り口を探る
EVは構造がガソリン車と異なり、駆動用の電池やモーター、制御系など従来とは違う知識が求められます。とはいえ、タイヤやブレーキ、足回り、車検といった基本的な整備は引き続き必要です。まずは既存の整備の延長でEV車の入庫を受け入れられる体制から始めるのが現実的です。
高電圧を扱う作業には安全上の資格や講習が関わるため、どこまで自社で対応し、どこから専門先と連携するかを整理しておくことが欠かせません。すべてを一度に抱え込まず、対応できる範囲を明確にしながら段階的に広げていく判断が求められます。
入り口を探すときは、いきなり大きな話にせず、今の整備の延長線上にあるものから確かめてください。タイヤ、下回り、内装、電装の一部など、動力の違いに関わらず必要な作業は残ります。ここは既存の技能がそのまま活きる領域です。
そのうえで、専門的な知識や資格が必要になる領域がどこからかを、整理しておいてください。境目が分かっていれば、「どこまでは今できて、どこからは備えが要るか」を従業員にも説明できます。この線引きが曖昧なままだと、現場は漠然とした不安を抱えることになります。
充電設備の導入をどう判断するか
充電設備の設置は、EV対応の象徴的な取り組みですが、立地や電力の引き込み状況、来店客の滞在時間などによって向き不向きが分かれます。通過交通が中心の立地と、滞在型の需要がある立地とでは、適した設備の考え方も変わってきます。
導入前に確認しておきたい点
- 設置場所の電力容量と引き込みの可否
- 来店客がどれくらい滞在するかという利用の想定
- 周辺での充電環境の充実度と競合の状況
- 設備の維持管理や更新にかかる負担
充電はそれ自体で大きく稼ぐというより、来店のきっかけや併設サービスへの導線として捉えると位置づけが見えてきます。導入の可否は自社だけで抱え込まず、補助制度の活用も含めて専門家と一緒に検討するのが安心です。
人材育成を計画的に進める
新しい整備や設備への対応は、結局のところ人が担います。EVに関する知識や高電圧作業の安全を身につけたスタッフを育てることは、対応の幅を広げる土台になります。一度に全員を育てるのではなく、中心となる人材から順に学ぶ機会を設けていくと現場が回りやすくなります。
育成には相応の時間がかかるため、需要が本格化してから慌てて始めるのでは間に合いません。今のうちから少しずつ学びの機会をつくり、現場に経験を積ませておくことが、将来の対応力の差につながります。
既存の強みと組み合わせる
ガソリンスタンドには、地域に根ざした立地や日々の来店客との接点、車を預かって作業する体制など、他業種にはない強みがあります。EV対応はこうした既存の強みと切り離すのではなく、組み合わせて考えることで価値が高まります。
たとえば、給油や洗車で来店したお客様にEVの相談窓口としても認知してもらえれば、地域で頼られる拠点としての存在感が増します。今ある接点を生かしながら、新しい対応を自然に重ねていく発想が有効です。
組み合わせを考えるときの手がかりは、「この場所でなければできないこと」は何かという問いです。車で立ち寄れる立地、屋根のある空間、定期的に来店する関係、車についての知識。これらが同時に揃っている場所は多くありません。
逆に、この強みを使わない方向へ広げようとすると、まったく別の商売を一から始めることになります。備えの方向を選ぶときは、今持っているもののうち何が活きるのかを一つずつ確かめてください。活きるものが多い方向ほど、立ち上がりが早くなります。
段階的に投資を判断する
設備投資は大きな決断です。将来を見据えて備えることは大切ですが、需要の広がりを見極めないまま過大な投資をすると、負担だけが残る恐れもあります。まずは小さく始め、手応えを見ながら広げていく段階的な進め方が、地域の実情に合った堅実な判断につながります。
投資の判断には、自社の財務状況や立地の特性、補助制度の有無など多くの要素が関わります。判断に迷うときは、業界の動きに詳しい専門家に相談し、自社に合った進め方を一緒に描くことをおすすめします。
将来の承継まで見据える
EV時代への対応は、目先の収益だけでなく、事業を次の世代へ引き継ぐ際の価値にも関わります。変化に備えて対応の幅を広げている事業は、承継や譲渡の場面でも前向きに評価されやすくなります。将来を見据えた備えは、企業としての魅力を高める取り組みでもあります。
私たち株式会社フォーバル 自動車アフターマーケットチームは、設備投資の判断から人材育成、将来の事業承継まで、ガソリンスタンド(SS)業界に特化して伴走します。相談無料・秘密厳守で、自社に合った次の一手を一緒に考えます。
今できることから、順に広げる
備えというと大きな投資を思い浮かべますが、費用のかからないところから始められます。順に並べると次のようになります。
- 自店に来る車の構成が、この数年でどう変わっているかを数える
- お客様から、どういう相談を受けているかを記録する
- 今の整備の範囲で、対応できることと難しいことを整理する
- 従業員のなかに、関心を持っている人がいるかを確かめる
- 研修や資格について、何があるかを調べる
- そのうえで、設備や体制への投資を検討する
一つ目は、明日から始められます。統計を調べるより、自店の前を通る車を数えるほうが判断に使えます。月に一度でも数えていれば、一年後には傾向が見えます。
四つ目は見落とされがちですが、決定的です。関心のある人がいるかどうかで、進み方がまったく変わります。社長が旗を振っても、現場に担い手がいなければ続きません。逆に、関心のある人が一人いれば、そこから広がります。
既存の仕事を手放さない
新しい分野への備えを考えるとき、注意したいのは今の仕事がおろそかにならないことです。備えは、現在の収益があってこそ続けられます。
- 備えに割く時間と費用が、今の業務を圧迫していないか
- 従業員が、方向が変わったと受け取っていないか
- 今の設備の維持や更新を、先送りしていないか
- 備えの成果が出るまでの期間を、現実的に見ているか
二つ目は、伝え方の問題です。「これからはこちらだ」と語ると、今の仕事をしている人は自分の役割が終わると受け取ります。「今の仕事を続けながら、幅を広げる」という伝え方であれば、受け止め方が変わります。
三つ目については、実際に起こりがちです。新しい方向に目が向くと、既存の設備の更新が後回しになります。しかし、今の収益はその設備から生まれています。備えと維持は、どちらかではなく両方です。
組む相手を探すという選択
すべてを自社で抱える必要はありません。備えの初期段階では、外と組むほうが早く、負担も小さいことがあります。
- 対応できる整備工場と提携し、まず取り次ぐ形から始める
- 設備を持つ事業者と組んで、場所だけ提供する
- 同業と共同で、研修や情報の収集を行う
- メーカーや販売店との関係をつくり、動向を掴む
一つ目の形であれば、設備を持たずに需要の有無を確かめられます。取り次ぎの件数が積み上がってきたら、自社で持つことを検討すればよいのです。いきなり設備から入ると、需要が読めないまま費用だけが先行します。
三つ目については、地域の同業と話す機会があるなら、率直に情報交換する価値があります。同じ悩みを抱えている会社は多いはずです。互いに手の内を明かせない部分はあるでしょうが、業界の動きについては共有できることがあります。
承継まで見据えたときの意味
備えの取り組みは、数年先の承継や売却の場面でも意味を持ちます。引き継ぐ側から見ると、次のように映ります。
- その会社が、将来をどう考えているかが分かる
- 従業員が、変化に対応できる状態にあるかが見える
- 設備の更新の考え方が、場当たりでないことが分かる
- 取引先や地域との関係が、今後も続きそうかが読める
一つ目が重要です。「これまでどおりやってきた」だけの会社と、「こう考えて、こう動いている」会社とでは、引き継ぐ側の受け止め方が違います。取り組みが大きくある必要はありません。考えていることと、実際に動いた記録があることに意味があります。
ただし、備えのために大きな投資をした直後に承継を迎えると、その効果が出る前に引き継ぐことになります。数年以内に代替わりを考えているなら、投資の規模と時期は慎重に判断してください。設備投資資金の調達方法の比較や売ると決める前にできる準備もあわせてご覧ください。
人を育てるには時間がかかる
設備は発注すれば入りますが、人はそうはいきません。備えのなかで最も時間がかかるのが、この部分です。次のことを見込んでおいてください。
- 誰に、何を身につけてもらうのか
- そのための研修や講習に、どれだけの日数が必要か
- その期間、現場をどう回すのか
- 費用は会社が負担するのか
- 身につけた人が、それを活かせる仕事が実際にあるか
五つ目を欠かすと、せっかく身につけた人が離れていきます。学んだことを使う場面がないまま何年も経つと、本人は「この会社にいる意味」を考え始めます。小さくてもよいので、実際に扱う機会をつくってください。
三つ目については、あらかじめ日を決めて押さえておくことです。「手が空いたら行かせる」では、いつまでも行けません。ガソリンスタンドの現場は、手が空く日がまず来ないためです。
判断を先送りしないための区切り
備えは、いつまでも「検討中」でいられてしまいます。それを避けるために、区切りを決めておいてください。
- いつまでに、何を判断するのか
- そのときに、どの数字を見て決めるのか
- 判断を後ろにずらす場合、その理由は何か
- 逆に、この条件が揃ったら踏み出す、という線はどこか
二つ目を決めておくと、感覚で判断せずに済みます。来店する車の構成、受けた相談の件数、近隣の状況。どれを見て決めるのかを先に決めておいてください。数字の目標を置く必要はありません。何を見るかが決まっていればよいのです。
四つ目については、待ちすぎることの損もあります。需要が明らかになってから動くと、周りも同時に動きます。早すぎる投資も、遅すぎる投資も避けたいところですが、判断の材料を持っていることが、そのどちらも防ぎます。
なお、設備や資格に関わる具体的な要件、必要となる期間や費用は、時期によって変わります。本記事は考え方の整理までとし、実際の判断は、メーカーや所管の窓口、専門家にご確認のうえ進めてください。
まとめ
EVの普及は段階的に進むと考えられ、ガソリンスタンドには給油以外への備えを早めに始める余地があります。EV点検の受け入れ、充電設備の慎重な導入判断、計画的な人材育成を、既存の強みと組み合わせながら段階的に広げていくことが現実的な道です。
大きな決断を一人で抱え込む必要はありません。地域の実情と自社の状況に合わせて、無理のない順序で次の柱を育てていきましょう。迷ったときは、業界に精通した専門家の伴走を得ることをおすすめします。