複数事業を抱えるSSの整理はなぜ難しいか

一つの事業だけを営んでいる場合、その事業をどうするかを考えればよいので、話は比較的シンプルです。しかし、給油に整備、不動産の賃貸などが絡み合っていると、それぞれ収益性も将来性も異なり、単純に「全部を一度にどうするか」とは考えにくくなります。

事業ごとに価値も引き継ぎやすさも違うため、まとめて扱おうとすると、それぞれの良さや課題が見えにくくなります。だからこそ、複数事業を営むSSでは、整理の「順番」を意識することがとりわけ重要になります。

さらに、複数の事業は互いに関わり合っていることが多く、これも整理を難しくします。給油の来店客が整備につながっていたり、同じ人員が複数の業務を兼ねていたりと、切り離そうとすると影響が思わぬところに及ぶことがあります。一つの事業に手を入れると、別の事業にも波及する。この結びつきを理解しておくことが、整理を誤りなく進める前提になります。

まず事業を棚卸しする

整理の第一歩は、自社がどんな事業をどんな形で営んでいるのかを、あらためて書き出してみることです。頭の中では分かっているつもりでも、収益や資産、人員がどう配分されているかを整理してみると、見え方が変わることがあります。

  • それぞれの事業の収益性と将来性
  • 各事業に紐づく資産や設備、人員
  • 事業ごとの取引先や顧客との関係
  • 許認可や契約が事業ごとにどうなっているか

この棚卸しによって、どの事業に強みがあり、どの事業に課題があるのかが浮かび上がります。これが、次の見極めの土台になります。

棚卸しをするときは、事業ごとの数字を切り分けて見ることを意識しましょう。複数の事業をまとめて経理していると、どの事業が利益を生み、どの事業が負担になっているのかが見えにくくなります。可能な範囲で事業別に収支を整理してみると、これまで気づかなかった実態が見えてくることがあります。事実を正しくつかむことが、その後のすべての判断の出発点になります。

棚卸しでは、数字だけでなく、その事業に誰がどれだけ関わっているかも書き出してください。人の時間は帳簿に出てきませんが、実際には最も大きな費用です。ここを見ないと、判断を誤ります。

残す事業と譲る事業を見極める

棚卸しができたら、それぞれの事業について「残すのか」「譲るのか」を考えます。すべてを手放す必要はなく、一部を残しながら、別の事業だけを引き継いでもらうという設計も可能です。判断の軸は、収益性や将来性だけでなく、自分や家族がどう関わっていきたいかという思いも含まれます。

たとえば、給油部門は誰かに引き継いでもらい、不動産の賃貸は手元に残して収入源とする、といった組み合わせも考えられます。逆に、強みのある事業をまとめて譲ることで、引き継ぎ手にとって魅力的な形にできることもあります。正解は一つではなく、自社の状況と希望によって変わります。

見極めの際には、引退後の自分の暮らしとの兼ね合いも考えたいところです。手元に残す事業があれば、それは引退後の収入源になり得る一方、管理の手間も残ります。完全に身を引きたいのか、一部の事業とは関わり続けたいのか。こうした希望によって、残すべき事業の選び方は変わってきます。数字の面だけでなく、これからどう過ごしたいかという視点も、判断に織り込んでいきましょう。

切り分けの方法を知る

事業を残すものと譲るものに分けたら、それを実際にどう切り分けるかという段階に入ります。ここには、いくつかの概念があります。専門的な話になりますが、大まかに知っておくと、専門家との相談がスムーズになります。

主な切り分けの考え方

  • 事業譲渡:特定の事業だけを選んで譲り渡す考え方
  • 会社分割:事業を切り出して別の会社の形にする考え方

特定の事業だけを譲る場合には事業譲渡という方法があり、事業を切り分けて別会社にする場合には会社分割という方法があります。どちらが適しているかは、事業の内容や資産の状況、引き継ぎ手との関係によって異なります。これらは手続きや影響が複雑なため、概念を知ったうえで、具体的な設計は専門家と進めるのが安心です。

大切なのは、これらの方法はあくまで目的を実現するための手段だということです。「どの方法を使うか」から入るのではなく、「何を残し、何を譲りたいか」というゴールを先に定め、それを実現するのに適した方法を選ぶ、という順で考えます。手段が先に立つと、本来の目的とずれた形に落ち着いてしまうこともあります。自社が目指す姿を明確にしたうえで、それにふさわしい切り分け方を専門家と一緒に検討していきましょう。

順番を誤るリスク

複数事業の整理では、どの事業から、どんな順で手をつけるかが結果を左右します。順番を誤ると、後から取り返しのつかない事態を招くことがあります。

たとえば、残したい事業と譲りたい事業がうまく切り分けられないまま話を進めてしまうと、本来手元に残せたはずの価値まで一緒に手放してしまうことがあります。また、先に一部を処分してしまったために、まとめて譲れば魅力的だった組み合わせが崩れ、引き継ぎ手が見つかりにくくなることも考えられます。整理は、全体の設計図を描いてから着手することが肝心です。

順番の問題でよくあるのが、赤字の事業を先に外そうとすることです。一見合理的ですが、赤字の事業ほど引き受け手が見つかりにくく、外すのに時間も費用もかかります。結果として、そこで止まってしまいます。

むしろ、動かしやすいものから手をつけて、勢いをつけるほうが進みます。一つ片づけば、社内の理解も進み、次に取りかかりやすくなります。理屈の上での優先順位と、実際に進む順序は違うということです。

全体設計を先に描く

順番を誤らないために大切なのは、個別の事業に手をつける前に、まず全体の設計図を描くことです。どの事業を残し、どれを譲り、どんな順序で進めるのか。ゴールの姿を先に思い描いてから、逆算して一つずつ実行していく——この考え方が、複数事業の整理を成功に導きます。

全体像がないまま、目の前の課題に一つずつ対応していくと、後になって「あの事業を先に切り離すべきではなかった」と気づくこともあります。急がば回れで、まず設計に時間をかけることが、結果的に無理のない整理につながります。

設計図を描く際は、最終的にどんな状態を目指すのかを、できるだけ具体的に思い描くことが役立ちます。すべての事業を手放して身軽になりたいのか、一部を残して関わり続けたいのか、家族に引き継ぎたい事業はあるのか。ゴールの姿が明確になるほど、そこに至る道筋と順序もはっきりしてきます。逆算経営の発想を、複数事業の整理にも当てはめて考えていきましょう。

設計を描くときは、途中の状態も想定に入れておいてください。整理が完了するまでには時間がかかり、その間はどっちつかずの状態が続きます。この期間に現場が回るかどうかも、設計の一部です。

従業員と取引先への配慮

事業を整理する際に忘れてはならないのが、そこで働く従業員と、支えてくれている取引先への配慮です。複数の事業がある場合、事業ごとに関わる人が異なることも多く、整理の進め方が一人ひとりの生活に直接影響します。だからこそ、誰に、いつ、何を伝えるかは慎重に考える必要があります。

特に、譲る事業に従事している従業員にとっては、雇用がどうなるのかは切実な問題です。引き継ぎ手に雇用を続けてもらえるよう設計できれば、従業員の安心につながり、事業の価値を保つことにもなります。取引先に対しても、関係が途切れないよう配慮しながら進めることで、事業そのものの魅力を損なわずに引き継げます。人への配慮は、単なる気遣いにとどまらず、整理を円滑に進めるうえでの実務的な要でもあります。

取引先への説明では、その相手との取引がどうなるのかを先に伝えることが大切です。会社の方針を長々と説明するより、あなたとの取引は続きます、あるいはこう変わります、と言われるほうが相手には意味があります。

専門家と設計を進める

複数事業の整理には、事業の価値の見立て、切り分けの方法の選択、引き継ぎ手との調整など、専門的な判断が数多く関わります。これらを経営者が一人で担うのは、負担が大きすぎます。だからこそ、早い段階で業界と実務に詳しい相手と一緒に設計を進めることをおすすめします。

私たち株式会社フォーバル 自動車アフターマーケットチームは、東証上場企業としてガソリンスタンド(SS)業界に特化した支援を行っています。複数の事業を抱えるSSについて、何を残し、何を譲り、どんな順で進めるかを、相談無料・秘密厳守・全国対応でご一緒に設計します。棚卸しの段階からお手伝いできます。

整理を始めると、社内が動揺する

事業の整理を検討し始めると、その気配は必ず現場に伝わります。特定の事業について数字を細かく見始めた、外部の人が出入りするようになった。従業員はこうした変化に敏感です。

何も説明がないまま憶測が広がると、自分の部門が切られるのではないかという不安から、人が離れ始めます。整理する前に人がいなくなれば、残すつもりだった事業まで立ち行かなくなります。

だから、検討の段階からどこまで何を伝えるかを決めておく必要があります。すべてを開示する必要はありませんが、事業を見直していること自体は早めに共有したほうが、憶測は生まれにくくなります。

共通で使っているものを、どう分けるか

整理の実務でつまずくのは、複数の事業が共通で使っているものの扱いです。同じ敷地、同じ建物、同じ人、同じ設備。帳簿の上では分けられても、現実には一体で動いています。

だから、切り分ける前に、何が共通で使われているのかを洗い出しておく必要があります。洗い出してみると、思っていたより多いことに気づきます。この一覧がないまま話を進めると、後から次々に問題が出ます。

共通のものをどう扱うかは、事情によって答えが変わります。分けるのか、共有し続ける取り決めをするのか、どちらかに寄せるのか。実際にどういう形が取れるかは、専門家に相談しながら決めることになります。

整理した後の姿を、先に描く

どれを外すかばかりを考えていると、外した後にどうなるかが見えなくなります。残った事業だけで採算が合うのか、人は足りるのか、日々の運営は回るのか。

とくに気をつけたいのが、外す事業が他の事業を支えていた場合です。その事業から来ていたお客さまが、別の事業も使っていたかもしれません。設備の費用を分担していたかもしれません。

だから、整理の検討では「外した後の姿」を先に描いてみることです。描いてみて成り立たないなら、その整理は適切ではありません。外すことより、残る形が成り立つかどうかが判断の中心です。

まとめ

複数の事業を営むガソリンスタンドの整理は、まず事業を棚卸しし、残す事業と譲る事業を見極めることから始まります。切り分けには事業譲渡や会社分割といった考え方があり、どれを選ぶかは状況によって変わります。

そして何より大切なのは、個別に手をつける前に全体の設計図を描き、順番を誤らないことです。複数事業だからこそ、設計の順序が結果を左右します。一人で抱え込まず、業界に精通した専門家と一緒に、無理のない整理を進めていきましょう。