借入があっても承継はできる
まず前提を確認します。中小企業が借入を持っているのは通常のことです。買い手も、無借金の会社だけを探しているわけではありません。
問題になるのは、借入の額そのものより「返せる見通しがあるか」です。事業が生み出す利益で返済していけるなら、借入は引き継げます。
解体・リサイクル業では、ヤードの土地や重機の取得で借入が膨らんでいるケースがよくあります。この場合、借入に見合う資産があるため、財務の見え方は借入額だけでは判断できません。
債務超過の場合はどうなるか
純資産がマイナス、つまり負債が資産を上回っている状態です。この場合、評価の構造が変わります。
株式の価値がゼロ、あるいはマイナスと評価されることになり、譲渡対価が期待できない、あるいは買い手が負債の引受を条件にする形になり得ます。
それでも承継が成立することはあります。買い手が許可やヤード、人材に価値を認め、負債を引き受けても引き継ぐ判断をする場合です。ただし条件は厳しくなり、選べるスキームも限られます。
また、債務超過でも実態としては超過していないケースがあります。土地の帳簿価額が時価より低い、生命保険の解約返戻金が資産に計上されていない、といった場合です。まず実態の純資産を把握することが出発点になります。
経営者保証をどう外すか
財務面で最も相談が多い論点です。
第三者に譲る場合
株式譲渡であれば、保証の解除を交渉条件に含めるのが実務です。買い手が代わりに保証するか、借入を借り換えるかといった形で整理されます。
大切なのは、最終契約までに金融機関との合意まで含めて手当てすることです。「譲渡後に外す」という曖昧な約束のまま進めると、後でこじれます。日程に織り込んでください。
親族・従業員に譲る場合
従来は後継者が新たに保証人になるのが通例でした。しかし必ずそうしなければならないわけではありません。会社の状態によっては、保証に依存しない形での借入を検討できます。
金融機関が見るのは、概ね次の3点です。
- 法人と経営者個人の資産・経理が分離されているか
- 財務基盤が安定しているか
- 経営の透明性が確保されているか
制度面の詳細は経営者保証とは?で解説しています。ここでは、この業種に固有の論点を掘ります。
この業種に固有の3つの論点
① ヤードの土地が担保に入っている
よくあるケースです。事業に不可欠な土地が担保になっているため、借入の整理と土地の扱いが連動します。
承継にあたっては、担保をどう扱うか、買い手が借り換える場合に担保設定をどうするかを整理する必要があります。土地が事業の生命線であるため、ここを曖昧にしたまま進められません。
② ヤードの土地を経営者個人が所有している
会社が個人から借りている形です。この場合、次の点が論点になります。
- 賃貸借契約が適正な条件で結ばれているか(無償や極端に安い賃料は、法人と個人の分離という観点で問題になり得る)
- 承継後も会社が使い続けられるか
- 個人の借入の担保になっていないか
- 相続が発生した場合に分割されないか
金融機関が保証解除を検討する際、この「法人と個人の分離」は重視される点です。整理しておく価値があります。
③ 相場変動で収益が振れる
金属相場に左右される収益構造は、返済能力の評価という面で不利に働きやすくなります。
対策としては、相場に依存しない収益の比重を高めることです。部品販売やリピート性のある取引が安定してあれば、返済の見通しを説明しやすくなります。これは保証解除だけでなく、承継時の評価にも効いてきます。
金融機関への相談をためらわない
「承継を検討していると伝えると不利になるのではないか」という不安をよく聞きます。しかし、保証の解除や借り換えには金融機関の協力が不可欠です。いずれ相談は避けられません。
むしろ、黙って進めて後から知られるほうが関係を損ないます。伝え方とタイミングを設計したうえで、早めに相談するのが現実的です。
相談の際は、承継の方針、事業の見通し、返済計画を整理して持参してください。金融機関が知りたいのは「承継後も返済が続くか」です。そこに答えられる材料があれば、話は前に進みます。
使える公的な仕組み
承継に伴う資金調達や保証の整理を後押しする仕組みがあります。
- 経営者保証に関するガイドライン:保証を求めない融資や契約見直しの考え方
- 事業承継時の保証解除に向けた取り組み:前経営者と後継者の二重保証を回避する方向での運用
- 経営承継円滑化法による金融支援:承継資金の借入や信用保証の後押し
いずれも要件があり、内容も見直されます。自社が使えるかは取引金融機関や専門家に確認しながら進めてください。
進め方の順序
- 借入と保証を一覧にする:どの借入に、誰の、どんな保証と担保が付いているか
- 実態の純資産を把握する:土地の時価、保険の解約返戻金などを反映させる
- 法人と個人を分離する:貸付金の整理、賃貸借の適正化、経費の見直し
- 金融機関に方針を伝える:返済計画とともに相談する
- スキーム選定に保証の観点を入れる:誰がどう引き継ぐかを設計段階から織り込む
- 解除の合意を書面で確認する:口約束で終わらせない
まとめ
借入があること自体は承継の障害になりません。問われるのは返済の見通しです。債務超過の場合は条件が厳しくなりますが、実態の純資産を見ると超過していないケースもあります。
経営者保証は、第三者承継では解除を交渉条件に含め、最終契約までに金融機関との合意まで手当てします。親族・社内承継では、法人と個人の分離、財務の安定、透明性という3点を整えることが近道です。
この業種では、ヤードの土地が担保になっている、あるいは経営者個人が所有していることが多く、ここの整理が保証解除の鍵になります。まずは借入・保証・担保を一覧化し、早めに金融機関へ相談することをおすすめします。
※ 経営者保証の取扱い、債務超過時の評価、公的支援の要件は、制度の改正や金融機関の判断、個別の事情によって異なります。本記事は一般的な考え方を整理したものです。実際の検討にあたっては、取引金融機関および専門家にご確認ください。