併設店がEV充電に踏み出す意味
充電設備そのものの粗利だけを見て、投資に見合うと判断するのは簡単ではありません。単価あたりの利益は薄く、稼働率は立地と地域の車の構成に大きく左右されます。設備単体の収支だけで考えるかぎり、決め手は出にくいのが実情です。
それでも整備・車販を併営する店にとって意味があるのは、電動車のユーザーと接点を持てるからです。充電の待ち時間はまとまった長さになり、点検や車検の相談を落ち着いて受けられます。給油では得られなかった長さの接客時間が生まれる、と捉えるのが実態に近い見方です。
加えて、電動車を見てもらえる工場を探している人が一定数いるという事情もあります。充電で立ち寄った先が整備もできると分かれば、そのまま顧客になり得ます。設備は集客の装置であると同時に、看板の役割も果たします。
逆にいえば、整備の受け皿を持たない店が充電設備だけを置いても、収益にはつながりにくい。併設店の強みは、充電の先に整備という出口があることです。
EV充電設備の導入に伴う投資の内訳
投資額は本体価格だけでは決まりません。実際には次の項目を積み上げて考えます。
- 充電器の本体
- 受変電設備・キュービクルの増強
- 敷地内の配線と基礎の工事
- 駐車スペースの整備と区画の表示
- 課金・認証の仕組み
- 導入後の保守と通信にかかる費用
見落とされがちなのが二番目です。整備工場は電力の契約容量が大きいことも多く、余裕があれば工事費を抑えられますが、足りなければ増強にかかる費用が本体価格を上回ることもあります。検討の最初に、現状の容量を確認してください。
ランニングコストの見立ても欠かせません。電気の基本料金は契約容量に応じて上がるため、稼働が少ない時期でも固定費として乗ります。保守契約や通信の費用も含め、年間の維持費まで入れて回収を計算してください。
活用しうる補助制度の考え方
充電設備の設置には、国や自治体が補助制度を設けている場合があります。制度ごとに、対象となる機器の種類、設置する場所、利用の開放範囲などの条件が定められている、という構造で理解しておくとよいでしょう。
ただし内容は年度により異なり、公募の時期も限られます。使えるはずだと当て込んで計画を組むのは危険です。制度が使えなかった場合でも成り立つかどうかを、投資判断の基準にしてください。
条件のなかでとくに注意したいのが、利用の開放範囲です。自社の顧客専用として運用する前提だと対象から外れる場合があります。機器と運用を決める前に要件を読む、という順序が安全です。詳細は公募要領をご確認ください。
制度を探すときの見方と情報源
制度は一か所にまとまっていません。次の窓口を順に当たると、抜けが減ります。
- 国の支援制度をまとめた公的な案内
- 都道府県・市町村の産業振興や環境の部門による案内
- 商工会議所・商工会の相談窓口
- 取引金融機関の担当者
- 機器メーカーや施工業者からの情報
自治体の制度は規模が小さくても要件が扱いやすい場合があり、国の制度と組み合わせられるかどうかも確認する価値があります。ただし併用の可否は制度側で定められているため、自己判断は避けてください。
施工業者からの説明は参考になりますが、自社の状況にそのまま当てはまるとは限りません。最終的な判断は、一次情報である公募要領をご確認ください。
設置場所と電力容量を見極める
整備の作業スペースや車両置場を削って充電区画を作ると、本業の受け入れ枠が減ります。どこに置くかは、入庫の動線と合わせて考えてください。
給油設備を縮小して空いた区画があるなら、有力な候補になります。撤去と設置を同じ時期に計画できれば工事も一度で済み、営業への影響を小さく抑えられます。
動線の確認も必須です。充電中の車は長時間停まるため、整備の入出庫や給油レーンの通行を妨げない位置に置く必要があります。図面の上で車の動きをなぞってから決めると、後悔が減ります。
電力容量の確認は、電力会社への問い合わせから始まります。増強が必要な場合は工事の順番待ちで時間がかかることもあります。公募の期限から逆算し、早めに着手してください。
地域の需要を見極めてから投資する
判断材料は、統計より自店の入庫データにあります。入庫している車のうち電動車はどのくらいか、その比率はどう動いているか。自分の商圏の事実こそが、いちばん確かな根拠です。
比率がまだ低いなら、設備より先に整備側の対応力を整えるほうが順序として正しい。急ぐ必要はありません。近隣に集合住宅や商業施設があるか、幹線道路沿いかといった立地の条件も、稼働の見通しを左右します。
電動車の広がり方は地域によって差があります。全国の動きに合わせるのではなく、自店の商圏で何が起きているかを見て、投資の時期を決めてください。
投資判断に使う数字の見方
感覚ではなく、次の数字を並べて判断してください。
- 自店の入庫のうち電動車が占める割合と、その推移
- 一日あたりに見込める充電の利用回数
- 契約容量の変更による基本料金の増加分
- 保守や通信を含む年間の維持費
- 充電で来店した客に整備を提案した件数と、入庫につながった件数
- 投資の回収に要する期間と、経営者自身の引退時期との関係
五番目の二つは、導入する前に記録の取り方まで決めておいてください。充電の利用件数だけを追っていると、設備の価値を整備の売上として説明できなくなります。
最後の項目も見落とされがちです。回収の期間が引退の時期を超えるなら、自前で持たない選択肢も含めて考え直す価値があります。
申請までに準備しておくこと
制度の活用を考えるなら、次の順で準備を進めます。
- 現状の電力契約容量を確認する
- 設置の候補地と必要な台数を決める
- 複数社から見積もりを取り、内訳をそろえて比較する
- 導入の目的と収益の見通しを文章にする
- 公募の要件と手続きの順序を確認する
四番目が計画書の中身になります。充電で稼ぐ、ではなく、電動車の整備需要を取り込む、という筋立てのほうが、併設店としては説得力があります。既存の顧客基盤という根拠を持っていることが強みです。
電動車を整備できる体制を先に整える
充電設備で接点を持っても、整備で受けられなければ収益になりません。むしろ、設備投資より先に着手すべきなのが人と工具です。
- 高電圧を扱う作業に必要な資格や講習の受講状況を確認する
- 感電を防ぐための保護具と絶縁工具をそろえる
- 高電圧部品を扱う際の作業手順と安全のルールを決める
- まずタイヤ・ブレーキ・足回りなど、共通する部分から受け入れを始める
- 対応できない作業の連携先を確保しておく
四番目が現実的な出発点です。電動車でも消耗品の交換や車検は発生します。すべてに対応できなくても、受けられる範囲を明示しておけば入庫は生まれます。
逆に、範囲を決めないまま受けてしまうと現場が危険にさらされます。できることとできないことの線引きを、工場全体で共有してください。
安全と法令面で確認しておくこと
充電設備は電気の設備であり、給油設備と同じ敷地に置く以上、確認すべき点があります。
- 電気の工事は有資格者による施工が前提になること
- 給油設備と同一の敷地に置く場合の位置関係を、所轄の消防に確認すること
- 屋外に置く場合の雨天や積雪への対策
- 充電区画の表示と、長時間の占有を防ぐ運用のルール
- 高電圧の作業に関する社内の安全ルールの整備
危険物を扱う施設を持つ店では、設備の配置や届出の考え方が通常の駐車場と異なります。判断を自社だけで完結させず、所轄の窓口と施工業者に確認しながら進めてください。個別の判断は専門家にご確認ください。
自己負担と資金繰りの見立て
補助を受けても、自己負担は残ります。加えて、多くの制度は先に支払ってから後で受け取る形です。その間の資金をどう用意するかを、申請の前に決めておいてください。
整備側の設備投資と同じ表に載せ、向こう数年で必要な資金を一枚にまとめること。給油設備の更新時期や地下タンクの負担が控えているなら、そちらとの優先順位も同時に考える必要があります。
資金の相談は、計画がある程度固まった段階で金融機関へ。数字の裏づけがある計画のほうが、話は前に進みやすくなります。
運用のルールと料金をどう決めるか
設備は置いた瞬間から運用が始まります。誰に開放するのか、料金をどう設定するのか、長時間の占有をどう防ぐのか。決めずに始めると、現場が対応に追われます。
制度を使う場合は開放の範囲が要件に関わることがあるため、運用の設計は要件の確認と同時に行ってください。決済の方法、故障時の連絡先、営業時間外の扱いも、あらかじめ掲示しておくとトラブルが減ります。
導入後に収益へつなげる工夫
設備を置いただけでは、充電客は何も買わずに帰ります。待ち時間に何を提案するかを、導入の前に決めておいてください。
タイヤの点検、車検の見積もり、下回りの確認。整備工場を持っている強みは、その場で見て提案できることです。充電スペースから整備の受付が見える配置にするだけでも、声のかけやすさが変わります。
来店の記録を残し、LINEなどで次の点検時期を案内する導線まで作れば、一度きりの接点が続く関係に変わります。設備の効果を見える化する仕組みを、同時に用意してください。
従業員への周知と接客の設計
充電客への声かけを誰が担うのかを決めておかないと、忙しい時間帯には誰も動きません。担当と、声をかける言葉の型を決めておいてください。
待合の場所、飲み物や手洗いの案内、待ち時間の目安の伝え方。こうした細部が、次に選ばれるかどうかを分けます。設備の話に見えて、実際は接客の設計です。
申請でつまずかないための注意点とよくある失敗
典型的なつまずきは三つです。要件を満たさない機器を先に発注してしまうこと、手続きの順序を誤ること、必要な書類がそろわないこと。
とくに、交付決定の前に契約や発注をすると対象外になる制度があります。工事の日程を先に押さえたい気持ちは分かりますが、順序を必ず確認してから動いてください。
そのほか、見積もりの内訳が粗くて比較できない、実績の報告に必要な写真や証憑を残していない、といった失敗もよく起こります。着工の前、工事中、完成後の写真を撮っておくだけでも、後の報告が楽になります。
補助金が使えなかった場合をどう考えるか
申請しても採択されるとは限りません。そのときに計画が止まらないよう、次善の策を用意しておいてください。
台数を減らして小さく始める、出力の低い機器にする、設置と運営を事業者に任せて場所だけ提供する、次の公募を待つ。とくに三番目は、投資をほぼ伴わずに電動車のユーザーとの接点だけを得られる方法です。
整備の受注につなげることが目的なら、設備を自前で持つ必要は必ずしもありません。目的から逆算して、手段を選び直してください。
よくある質問
Q. 充電設備だけで採算は取れますか。 A. 設備単体の粗利で判断するのは難しいのが一般的です。整備や車販の入庫にどれだけつながるかを含めて考えてください。立地によって差が大きく、個別性が高く一概には言えません。
Q. どのくらいの出力の機器を選べばよいですか。 A. 立地と滞在時間の想定で変わります。待ち時間に整備の相談を受けたいなら、一定の滞在が生まれる設計のほうが目的に合います。
Q. 補助はどのくらい受けられますか。 A. 補助の割合や上限は年度により異なり、断定できません。最新の公募要領をご確認ください。
Q. 整備の資格がなくても設備は置けますか。 A. 設備の設置と整備の対応は別の話です。ただし整備で受けられなければ収益につながりにくいため、体制づくりを並行して進めることをおすすめします。
Q. 給油設備の近くに置いても問題ありませんか。 A. 位置関係については確認が必要な場合があります。所轄の消防や施工業者、専門家にご確認ください。
専門家と進めることで得られる安心
制度の選定、計画書の作成、実績の報告まで、手続きには相応の手間がかかります。本業を回しながら一人で進めるのは容易ではありません。
フォーバル 自動車アフターマーケットチームでは、制度の選定から事業計画書の作成、採択後の実績報告まで伴走しています。相談無料・秘密厳守・全国対応、オンライン面談にも対応しています。
まとめ
EV充電設備の導入は、充電の粗利ではなく、電動車の整備需要を取り込む投資として設計してください。電力の契約容量の確認が費用を大きく左右し、設置場所は整備の動線とあわせて決めることになります。
制度の内容は年度により異なるため、使えなかった場合でも成り立つ計画かどうかが判断の基準です。設備より先に、電動車を受けられる人と工具の体制を整えること。安全と法令の確認も、自社だけで完結させないでください。
数字の見方も運用のルールも、導入の前に決めておくほど後が楽になります。計画づくりの段階からご相談ください。