費用は承継方法で大きく変わる
事業承継にかかる費用は、親族への承継か、社内承継か、M&Aかによって、その中身も規模も大きく異なります。まずは「承継=一律の費用」ではないことを理解しておくことが大切です。方法が違えば、かかる費用の性質もまったく変わります。
また、費用には目に見える手数料だけでなく、税負担や準備にかかるコストなど、複数の種類があります。全体像を把握することで、どこにどれだけ備えるべきかが見えてきます。部分的に費用を見るだけでは、後で想定外の負担に驚くことになりかねません。
もう一つ意識したいのが、費用の「出どころ」です。会社が負担するもの、経営者個人が負担するもの、後継者が負担するものが混在します。誰の財布から出るのかを分けて考えないと、資金繰りの見通しを誤ります。
費用を5つの箱に分けて考える
全体像をつかむには、費用を性質ごとに分けて並べるのが近道です。おおまかに次の5つに分けると、抜け漏れを防げます。
- 税に関わる費用……相続税、贈与税、株式の譲渡に伴う税など
- 専門家に支払う費用……税理士、弁護士、司法書士、M&Aアドバイザーなど
- 手続きに関わる費用……登記、名義変更、許認可に関する各種手続き
- 準備・磨き上げの費用……設備更新、体制整備、資料の作成など
- 承継後にかかる費用……制度統合、看板や表示の変更、システムの移行など
この5つのうち、どれが自社で重くなるかは承継方法と会社の状態で決まります。まずは箱を用意し、分かる範囲で中身を書き出してみることをおすすめします。
承継方法別の費用のイメージ
親族・社内承継の場合
親族や社内への承継では、自社株の移転に伴う税負担が主な論点になります。相続、贈与、譲渡のいずれの方法をとるかで扱いが変わり、税制の特例が使える場合もあります。ただし税額は会社の状況によって大きく異なり、制度も変更される場合があるため、一概には言えません。
社内承継の場合、これに加えて「後継者がどう株式を買い取るか」という資金の問題が生じます。個人保証の引き継ぎも含め、後継者側の資金計画とセットで考える必要があります。
M&Aの場合
M&Aでは、仲介やアドバイザーへの費用が発生するのが一般的です。費用の体系は依頼先によって異なります。当社のM&A支援は完全成功報酬制で、成約に至らなければ費用は発生しません。費用体系は事前によく確認することが大切です。
なお、売り手にとってM&Aは対価を受け取る取引でもあります。費用だけを見るのではなく、対価と費用と税負担を差し引きして、最終的に手元にいくら残るのかで比較することが重要です。
税金に関わる費用
事業承継の費用のなかで、多くの経営者が気にするのが税金です。自社株や事業用資産を引き継ぐ際には、相続税や贈与税、譲渡に伴う税などが関わってきます。税負担は、承継の費用のなかでも大きな比重を占めることがあります。
これらの税負担は、自社株の評価額や承継の方法によって大きく変わります。事業承継税制の特例など、負担を抑えるための制度も用意されていますが、要件や内容は年度により異なり、制度は変更される場合があります。
特例には、事前の計画提出や一定期間の継続要件など、手続き面の条件が伴うのが通例です。使えるつもりでいたのに要件を満たしていなかった、という事態を避けるためにも、具体的な税額や活用可否は税理士や専門家にご確認ください。
専門家に支払う費用
承継を進めるうえでは、税理士、弁護士、M&Aアドバイザーなど、さまざまな専門家の支援が必要になる場面があります。これらの専門家への費用も、承継コストの一部として見込んでおく必要があります。
- 自社株評価や税務相談の費用
- 契約書作成など法務の費用
- M&A仲介・アドバイザリーの費用
- 各種手続きの代行費用
- 登記や名義変更に関わる費用
- 買い手側が行う調査に対応するための資料作成の手間と費用
費用の体系は依頼先やサービス内容によって異なります。事前に費用の仕組みを確認し、納得したうえで依頼することが大切です。相談自体は無料で受けられる場合も多いため、まずは問い合わせてみるとよいでしょう。費用の透明性は、依頼先選びの重要な基準です。
M&Aの費用体系の見方
M&Aの費用は、依頼先によって呼び方も発生時期も異なります。名称に惑わされず、「いつ、どの段階で、何に対して支払うのか」を確認するのが要点です。確認したい観点を挙げます。
- 着手の段階で費用が発生するのか、成約時のみか
- 中間段階で発生する費用があるか、その時期はいつか
- 成約に至らなかった場合、支払い済みの費用は戻るのか
- 報酬の算定基礎は何か(何を基準に計算されるのか)
- 最低報酬額の定めがあるか
- 契約期間中に他社へ相談できるか(専任の定めの有無)
- 契約を途中で解約する場合の取り扱い
いずれも契約書に記載される事項です。金額の水準そのものより、条件の明確さと説明の丁寧さを見るほうが、後悔しにくい選び方になります。費用の水準は依頼先により異なり、一概には言えません。
準備段階でかかる費用
承継の実行時だけでなく、準備段階にも費用がかかることがあります。たとえば、会社の磨き上げのための投資や、名義変更・許認可に関わる手続きの費用などです。準備にかかる費用は、見落とされがちな部分です。
整備・鈑金・中古車販売の会社では、事業用不動産や設備の名義整理、指定工場・認証工場の許認可に関わる手続きが必要になることがあります。これらの費用も、承継全体のコストとして見込んでおくと安心です。
また、決算書の整理、規程類の整備、在庫や設備の棚卸しといった作業にも、手間という形のコストがかかります。外部に依頼すれば費用が、社内で行えば時間が必要になる。どちらを選ぶかも計画の一部です。
業態別に見落としやすい費用
業態によって、承継の場面で顔を出す費用は違います。自社に当てはまるものがないか確認してみてください。
- 整備工場……検査機器の校正や更新、ADAS対応に必要な設備や作業スペースの確保
- 鈑金塗装……塗装ブースや乾燥設備の更新、排気や廃棄物に関する設備の点検
- 中古車販売店……在庫車両の評価見直し、展示場の賃貸借契約の名義変更、保証債務の引き継ぎ
- 車検専門店……フランチャイズ契約の承継に伴う手続き、看板や表示の変更
- ガソリンスタンド……地下タンクや配管の点検・改修、土地に関する調査、元売や特約店との契約の切り替え
- 部品商……滞留在庫の評価損の認識、売掛債権の精査、配送車両の名義変更
- 輸入車……メーカーや正規ディーラーとの取引契約の再締結、専用テスターの更新
- 二輪……小規模ゆえの資料整備の負担、店舗の賃貸借条件の見直し
これらは金額の幅が大きく、状況によってまったく異なります。まずは「自社に該当するか」を確認し、該当するものについて個別に見積もることが現実的です。
許認可・名義変更に伴う手続き費用
承継の手法によって、許認可や契約の扱いは変わります。株式を譲渡する形では会社そのものが存続するため許認可が維持されることが多い一方、事業だけを切り出す形では取り直しや再締結が必要になる場合があります。
- 自社が保有する許認可・登録・届出をすべて洗い出す
- それぞれについて、承継手法ごとの扱い(維持・変更届出・取り直し)を確認する
- 必要な手続きの所要期間を調べ、承継のスケジュールに織り込む
- 契約書類(賃貸借、リース、フランチャイズ、取引基本契約)に経営権の変更に関する条項がないか点検する
- 登記や名義変更に必要な費用と手間を見積もる
手続きの要否、必要書類、期間は年度により異なります。所管の窓口や専門家にご確認ください。ここを後回しにすると、承継の実行時期そのものがずれ込むことがあります。
廃業を選んだ場合にかかる費用
費用の全体像を考えるなら、承継しない場合の費用も並べて見るべきです。廃業は「費用がかからない選択」に見えて、実際にはまとまった支出を伴います。
- 設備や工具の撤去・処分の費用
- リース契約の中途解約に伴う清算
- 賃借している土地建物の原状回復
- 在庫や部品、廃棄物の処分
- 従業員への退職に伴う支払い
- 会社を清算するための登記や手続きの費用
金額は設備の規模や立地、契約内容によって大きく異なり、一概には言えません。だからこそ、承継と廃業の両方を試算して並べることに意味があります。並べて初めて、承継の費用が高いのか安いのかを判断できます。
会社の値段はどう決まるのか
費用の話と表裏一体なのが、会社の値段です。M&Aを選ぶ場合、受け取る対価が費用や税負担を上回るかどうかが判断の分かれ目になります。
中小企業では、時価純資産に営業利益の2〜3年分を加える考え方(時価純資産法)が一つの目安とされます。ただし、これはあくまで出発点であり、実際の価格は交渉で決まります。
自動車アフター業界では、土地建物や整備機器といった資産の評価、有資格者の体制、顧客基盤や入庫台数の安定性なども評価の材料になります。評価の考え方は個別性が高く一概には言えないため、専門家にご確認ください。
費用を抑えるための考え方
承継費用は、早めの準備によって抑えられる部分があります。時間に余裕があれば、税制の特例を活用したり、自社株の評価が有利なタイミングを見極めたりと、計画的な対応が可能になるからです。時間は、費用の面でも味方になります。
逆に、準備不足のまま承継を迎えると、選択肢が狭まり、結果として費用がかさむこともあります。急いで進める案件ほど、調査や交渉に余計な手間がかかり、条件面でも譲歩を迫られやすくなります。
早めの計画が、費用面でも大きな差を生むのです。ただし個別の対策は専門家と相談しながら進めてください。自己判断での対策は、思わぬ落とし穴を招くこともあります。
資金繰りとタイミングの設計
費用は総額だけでなく、いつ出ていくかが重要です。承継の対価を受け取る前に支出が先行する局面もあるため、時期のずれを見込んだ資金計画が要ります。
- 承継の想定時期を仮に置き、そこから逆算して支出の時期を並べる
- 会社が負担するもの、個人が負担するもの、後継者が負担するものに分ける
- 税負担の発生時期を税理士と確認する
- 手元資金で賄えるか、借入や生命保険などの手当てが必要かを判断する
- 退職金の支給時期と、その原資の準備状況を突き合わせる
この作業は、承継後の自分自身の生活資金の設計とも直結します。会社の話と個人の話を同時に描いておくことが、安心して決断するための土台になります。
よくある失敗と回避策
費用をめぐる失敗には、次のような典型があります。
- 手数料だけを比べて依頼先を決め、税負担を含めた手取りで損をする……総額と手取りで比較する
- 税の負担を試算しないまま株式を移転し、納税資金が足りなくなる……移転前に税理士と試算する
- 準備段階の費用を見込まず、途中で資金が不足する……準備コストも計画に含める
- 廃業との比較をせずに判断し、後から後悔する……両方を試算して並べる
- 契約書の費用条項を読み込まずに署名する……発生時期と算定基礎を必ず確認する
- 名義や許認可の整理を先送りし、実行直前に費用と時間が膨らむ……早い段階で洗い出す
いずれも、早めに全体像を描いていれば避けられるものばかりです。費用の話は、着手が早いほど選択肢が増えます。
費用より「残るもの」を考える
費用の話は大切ですが、費用だけに目を奪われると本質を見失います。承継によって従業員の雇用が守られ、顧客との関係が続き、築いてきた事業が次の世代に残る。その価値は、かかる費用と天秤にかけて考えるべきものです。
廃業を選べば費用がかからないように見えても、実際には処分費用がかかり、事業も雇用も失われます。地域の車をずっと見てきた工場が消えることの意味は、金額では測れません。
費用の多寡だけでなく、承継によって何が残るかという視点を持つことが大切です。費用は、残るものへの投資でもあるのです。
よくある質問
Q. 相談するだけで費用はかかりますか。
依頼先によりますが、初期の相談を無料で受けている窓口は多くあります。当チームへのご相談は無料で、M&A支援は完全成功報酬制です。費用の発生条件は依頼前に必ずご確認ください。
Q. 承継費用の目安を金額で教えてもらえますか。
会社の規模、資産構成、承継方法、税制の適用可否によって幅が大きく、個別性が高いため一概には言えません。自社の数字をもとに試算するのが唯一の近道です。制度の内容も年度により異なります。
Q. 赤字の会社でも承継費用は発生しますか。
手続きや専門家に関わる費用は、業績にかかわらず一定程度は発生します。一方で税負担は株式評価などに連動するため、状況によって大きく変わります。詳細は税理士にご確認ください。
Q. 費用は会社と個人のどちらが負担するのですか。
費目によって異なります。会社が契約主体となる費用は会社が、株式の譲渡に伴う税は株主個人が負担するのが一般的です。負担者の整理は、資金計画の出発点になります。
Q. 事業承継税制の特例は使えますか。
要件を満たすかどうかは個別の判断になり、制度の内容や手続きは年度により異なります。適用の可否と有利不利の両面を、税理士など専門家にご確認ください。
まとめ
事業承継にかかる費用は、承継方法や会社の状況によって大きく異なり、税金、専門家費用、手続き費用、準備コスト、承継後の費用など複数の種類があります。まずは費用を性質ごとの箱に分け、自社に該当するものを書き出すところから始めましょう。
業態によって顔を出す費用は違い、許認可や契約の扱いも承継手法で変わります。廃業を選んだ場合の費用も並べて試算すれば、判断の材料はさらに揃います。
具体的な金額は個別性が高く一概には言えないため、専門家にご確認ください。自社の場合にどれくらいの費用がかかるか知りたいときは、まず相談してみることをおすすめします。株式会社フォーバル 自動車アフターマーケットチームが、業界特化の視点で費用の見通しを一緒に整理します。相談は無料・秘密厳守・全国対応、M&Aは完全成功報酬です。