湖がくり抜いた商圏という形
県の中心に大きな湖があるため、市街地も道路も湖の外周に沿って並びます。工場から半径何キロという円を描いても、その内側の相当な面積は水です。
湖岸を回る道と、東西を結ぶ限られた橋。この二つが移動の経路を決めています。対岸の顧客は、距離が近くても実際には遠いという状態が生まれます。
商圏を説明するときは、半径ではなく所要時間で示してください。何分圏内に何世帯・何事業所があるかを出せると、県外の相手にも実態が正しく伝わります。
滋賀ならではの論点は次の節から扱います。その前提となる全国共通の手順や相場の考え方は、自動車整備工場の事業承継と自動車整備工場のM&Aで解説しています。
工場立地が続く県で増える社用車
内陸でありながら高速道路網が整い、県内には製造業の事業所が数多く立地しています。工場が増えれば、通勤の車も、部材を運ぶ社用車も増えます。
こうした事業所は車両をまとめて保有し、点検の時期も揃えて発注する傾向があります。一件が決まれば台数がまとまるという性質です。
契約している法人ごとの台数、年間の売上、車検の集中する月。これを一覧にしておくと、買い手は引き継いだ後の売上を月単位で見積もれます。合計額より、月別の内訳のほうが評価に効きます。
滋賀運輸支局での手続の見通し
認証工場・指定工場の届出は、近畿運輸局の管轄下で行います。承継の方法によって、届出で済むのか取り直しが必要になるのかが変わります。
株式を譲渡する形であれば、会社そのものは変わらないため手続きは比較的シンプルです。事業だけを譲り受ける形では、譲り受ける側が新たに取得し直す必要が生じる場合があります。
指定工場では設備や整備主任者の要件も関わってきます。どちらの形にするかで手続きの重さが変わりますので、条件を詰める前の段階で管轄の窓口と専門家に確認しておいてください。
京阪神へ通う世帯が持つ二台目
県南部を中心に、京都や大阪へ通勤する世帯が多く住んでいます。通勤には鉄道を使い、生活のために車を持つという組み合わせが成り立ちます。
この層の車は走行距離が伸びにくく、故障による入庫は少なめです。一方で車検と法定点検は確実に来ます。単価は高くないが、来る時期が読めるという顧客層です。
この読みやすさは、買い手にとって計算しやすい収益です。車検の入庫が何台あり、そのうち何%が翌回も戻ってきているか。継続率を出せると、収益の安定性が数字で示せます。
高速の結節点で起きる県外車の対応
県内では複数の高速道路が交わり、県外ナンバーの車が大量に通過します。長距離の途中で不調が出れば、近くの工場に持ち込まれます。
この対応は一回限りで終わることが多く、継続顧客にはなりにくい仕事です。それでも件数がまとまれば売上の一部を確実に構成します。
問題は集計されていないことです。飛び込みの件数と平均単価、時期の偏りを出しておけば、買い手は「読めない収入」ではなく「毎年ある程度発生する収入」として評価できます。
後継者がいない場合に取りうる道
滋賀県の整備工場も、後継者の問題と無縁ではありません。帝国データバンクの「全国企業『後継者不在率』動向調査(2025年)」では、全国の後継者不在率は50.1%でした。7年連続で改善しているとはいえ、まだ2社に1社です。小規模企業に絞ると57.3%となります。
日本自動車整備振興会連合会の「自動車特定整備業実態調査」(2025年度)では、全国の事業場数は92,251、うち指定工場は29,810で、事業場数は4年ぶりに減りました。整備要員は402,367人、その平均年齢は47.7歳(自家用を除く)です。事業所が増えている地域でも、それを支える整備の側が細れば供給が追いつきません。同じ調査では、整備要員の平均年収は442万8,900円で前年度より4.0%上がりました。人の確保にかかる負担は年々重くなっています。
第三者への譲渡なら、認証や指定、法人との契約、通勤層の顧客、整備士の雇用も、まとめて引き継いでもらえる可能性があります。廃業を選べば設備の処分に費用がかかり、預かってきた顧客の行き先も無くなります。両方で比べたうえで判断してください。
まとめ
滋賀の整備工場は、湖を避けて円を描く商圏の中にあります。半径で示すと実態と合わないため、所要時間で説明することが出発点になります。
M&Aを考えるなら、時間圏でみた商圏、法人ごとの台数と車検の月別内訳、通勤層の継続率、飛び込み対応の件数と単価、運輸支局での手続の見通し。この5つを揃えておくと交渉が進みます。
よくある質問
Q. 商圏の説明で、対岸の顧客をどう扱えばよいですか。 A. 距離ではなく所要時間で示してください。湖を回り込む経路になるため、半径で描いた円は実態と合いません。何分圏内に何世帯・何事業所があるかで示すほうが、県外の買い手にも正確に伝わります。
Q. 通勤層の顧客は単価が低いのですが、評価されますか。 A. 単価より読みやすさが評価されます。車検と法定点検が確実に来る層なので、入庫台数と継続率を出せば、買い手は引き継いだ後の収益を計算できます。安定性は価格の根拠になります。
Q. 高速を降りてくる県外車の対応が多く、収益が読みにくいのですが。 A. 件数と平均単価、時期の偏りを集計してください。一件ごとは一回限りでも、年間で見れば毎年ある程度発生します。集計されていないだけで、読めない収入ではありません。