距離が参入障壁にならないという前提

県土が狭いため、顧客にとって「近いから」という理由で工場を選ぶ必然性が他県より薄くなります。少し足を延ばせば別の選択肢があるからです。

つまり立地よりも、選ばれる理由そのものが問われる市場です。価格なのか、対応の速さなのか、特定の車種への強さなのか、人との関係なのか。

M&Aの場面でも、ここが最も見られます。なぜこの顧客はうちに来ているのか。それを言葉にできる工場と、できない工場では、評価が大きく分かれます。

香川ならではの論点は次の節から扱います。その前提となる全国共通の手順や相場の考え方は、自動車整備工場の事業承継自動車整備工場のM&Aで解説しています。

選ばれる理由を数字で裏づける

「対応が丁寧だから」「昔からの付き合いだから」という説明は、買い手には検証できません。同じことを主張する工場が他にもあるからです。

代わりに示せるのは実績です。車検の継続率、顧客の平均継続年数、紹介による新規の割合、リピートまでの平均期間。これらの数字は、選ばれ続けている事実の裏づけになります

特に継続率は、距離という理由が効かない市場で顧客が残っている証拠として強く働きます。集計していない場合は、譲渡準備の最初の作業としてここから始めてください。

香川運輸支局での手続の見通し

認証工場・指定工場の届出は、四国運輸局の管轄下で行います。譲渡の方法によって、届出で済むのか取り直しが必要になるのかが変わります。

株式譲渡であれば会社が存続するため事業者としての同一性が保たれ、手続きは比較的シンプルです。事業譲渡では新たに取得し直す必要が生じる場合があり、その間の営業をどうするかも論点になります。

指定工場では設備や整備主任者の要件も関わります。制度や運用は変わりますので、実際の可否は管轄窓口と専門家に確認しながら進めてください。

四国の玄関口という位置づけ

瀬戸大橋で本州とつながり、四国内の各県へも移動しやすい位置にあります。県外の事業者にとっては、四国での足掛かりとして見られることがあります。

県内の需要規模だけで自社を測ると、この価値を取りこぼします。県外との取引、他県からの入庫、出張対応の範囲があれば、それは商圏が県境で止まっていない証拠です。

来店エリアの分布と県外顧客の比率を整理しておくと、単独の工場としてではなく拠点として見てもらえる可能性が出てきます。

島しょ部と潮風という別の条件

瀬戸内には有人の島が点在し、島に顧客を持つ工場もあります。船の便に合わせた段取りが必要で、本土の顧客とは対応の組み立てが変わります。

沿岸部や島では潮風の影響で下回りの腐食が進みやすくなります。同じ県内でも、内陸の顧客とは点検で先に見る箇所が違ってきます。

島への対応実績と、潮風を踏まえた点検の勘所。この2つは狭い県土という条件とは別に、この土地でしか積めない経験です。書き出して引き継げる形にしておいてください。

後継者がいない場合の選択肢

香川県の整備工場でも、後継者の問題は共通しています。帝国データバンクの「全国企業『後継者不在率』動向調査(2025年)」では、全国の後継者不在率は50.1%でした。7年連続で改善しているとはいえ、まだ2社に1社です。小規模企業に絞ると57.3%となります。

日本自動車整備振興会連合会の「自動車特定整備業実態調査」(2025年度)では、全国の事業場数は92,251、うち指定工場は29,810で、事業場数は4年ぶりに減りました。整備要員は402,367人、その平均年齢は47.7歳(自家用を除く)です。母数の限られる地域では、育てた人が残るかどうかが工場の存続に直結します。同じ調査では、整備要員の平均年収は442万8,900円で前年度より4.0%上がりました。人の確保にかかる負担は年々重くなっています。

顧客に選ばれ続けている工場は、同じ市場で戦う相手にとって価値があります。距離が参入障壁にならない土地で顧客を保ってきたという事実は、それ自体が実力の証明です。廃業を選べば設備の処分に費用がかかり、顧客も整備士も散ってしまいます。譲渡ならそれらを含めて引き継いでもらえる道が開けます。

まとめ

香川の整備工場は、県全体が一つの商圏になる代わりに、距離が参入障壁にならない市場で戦っています。立地ではなく、選ばれる理由そのものが問われます。

M&Aで整理しておきたいのは、車検の継続率と顧客の平均継続年数、紹介による新規の割合、運輸支局での手続の見通し、そして県外との取引範囲です。数字が実力の裏づけになります。

よくある質問

Q. 近所に同業が多く、価格競争になりがちです。 A. 距離で選ばれない市場では、価格以外の理由を示せるかどうかが分かれ目になります。継続率や紹介の割合といった数字は、価格以外の理由で選ばれている証拠になります。まず集計してみることをおすすめします。

Q. 継続率を集計していません。何から始めればよいですか。 A. 直近3年ぶんの車検について、前回もうちで受けた顧客が何割かを数えるところからで十分です。この一つの数字だけでも、選ばれ続けているかどうかが見えます。譲渡準備の最初の作業としておすすめします。

Q. 県外からの入庫もあります。評価されますか。 A. 商圏が県境で止まっていない証拠になります。四国での足掛かりを探している相手にとっては、県内の需要規模だけでは測れない価値になります。来店エリアの分布を整理して示してください。