入庫の土台が厚いという前提
自動車の保有台数が多く、車検や点検の需要が安定しています。ディーラー、専業工場、量販店と受け皿の層も厚く、業界全体としては仕事が細りにくい地域です。
ただし台数が多いということは同業も多いということです。承継の場面で見られるのは規模ではなく、どの顧客とどうつながっているかのほうです。
定期入庫の顧客が何件あるか、車検の継続率はどれくらいか、法人客と個人客の比率はどうか。この3つを数字で示せると、事業の安定度が具体的に伝わります。引き継ぐ側が最も知りたい情報でもあります。
ここから先は愛知に固有の事情を見ていきます。進め方や費用、許認可の扱いなど全国に共通する部分は、自動車整備工場の事業承継と自動車整備工場のM&Aの各ガイドにまとめています。
自動車産業の集積が生む法人需要
完成車メーカーと部品メーカーが集まる地域では、社用車や配送車を抱える法人が多くなります。法人との継続契約を持っている工場は、入庫が読みやすいという強みがあります。
一方で、法人客は単価と対応速度の要求が厳しく、担当者が代われば見直しの対象にもなります。関係が経営者個人に紐づいている場合、承継の際にそのまま引き継げるとは限りません。
どの法人と、いつから、どういう経緯で取引しているか。窓口は誰か。契約書は交わしているか。この整理が、承継準備の実務になります。
愛知運輸支局での手続をどう引き継ぐか
認証工場・指定工場の届出は、中部運輸局の管轄下で行います。承継の方法によって、届出で済むのか、取り直しが必要になるのかが変わります。
会社を存続させる形(株式譲渡や親族内・社内承継)であれば、事業者としての同一性が保たれるため手続きは比較的シンプルです。事業だけを譲る形では、新たに取得し直す必要が生じる場合があります。
指定工場の場合、設備や整備主任者の要件も関わってきます。制度や運用は変わることがありますので、実際の可否は管轄の窓口と専門家に確認しながら進めてください。
整備士をどう確保し続けるか
日本自動車整備振興会連合会の「自動車特定整備業実態調査」(2025年度)では、全国の事業場数は92,251、うち指定工場は29,810で、事業場数は4年ぶりに減りました。整備要員は402,367人、その平均年齢は47.7歳(自家用を除く)です。人材の確保は全国共通の課題ですが、同業が多い地域では採用の競合も激しくなります。
同じ調査では、整備要員の平均年収は442万8,900円で前年度より4.0%上がりました。人の確保にかかる負担は年々重くなっています。愛知では自動車関連の事業所が多く、整備士の資格を持つ人の選択肢も広くなります。給与だけで競うと体力勝負になります。
承継を考えるなら、いま在籍している整備士の年齢構成、資格の内訳、勤続年数を整理しておくことが重要です。人が残る会社かどうかは、決算書ではなくこの表に出ます。
設備投資の判断と承継の時期
電子制御装置整備の認証、スキャンツール、エーミング作業に必要なスペース。近年は設備への投資判断が経営の重さを増しています。
この投資を自分の代で行うのか、次の代に委ねるのか。設備の更新時期と承継の時期は、切り離して考えられません。先送りすると、引き継ぐ側が投資と引き継ぎを同時に背負うことになります。
いつ、何に、いくら投資してきたか。今後どの設備が更新時期を迎えるか。この見通しを整理しておくと、引き継ぐ側が判断しやすくなります。
後継者がいない場合に取りうる道
愛知県の整備工場も、後継者の問題と無縁ではありません。帝国データバンクの「全国企業『後継者不在率』動向調査(2025年)」では、全国の後継者不在率は50.1%でした。7年連続で改善しているとはいえ、まだ2社に1社です。小規模企業に絞ると57.3%となります。
後継者が決まらないとき、廃業だけが答えではありません。第三者への譲渡なら、認証や指定、顧客、整備士の雇用も、まとめて引き継いでもらえる可能性があります。自動車産業圏で顧客基盤を持つ工場には、事業を広げたい相手からの関心が集まることがあります。
廃業を選べば設備の処分や原状回復に費用がかかり、顧客も散ってしまいます。手元に残る額と、残せるものの両方で比べたうえで判断してください。方針が定まっていない段階からご相談いただけます。
まとめ
愛知の整備工場は、保有台数の多さと法人需要という土台の上にある一方、同業が多く整備士の確保も競争になる環境に置かれています。規模だけでは差がつきません。
承継を考えるなら、顧客との関係、法人取引の中身、運輸支局での手続の見通し、整備士の年齢構成と資格、設備投資の履歴と今後。この5つを説明できる形にしておくことが、そのまま準備になります。
よくある質問
Q. 同業が多い地域ですが、引き継ぎ手は見つかりますか。 A. 同業が多いということは、事業を広げたい相手も多いということです。規模より、定期入庫の顧客数や車検の継続率、整備士の在籍状況といった中身が見られます。数字で示せる状態にしておくことをおすすめします。
Q. 法人客との取引が私個人の関係で続いています。 A. 属人的な関係は引き継ぎの障害になりますが、整理すれば解消できます。取引の経緯、窓口、条件を書き出し、担当者を複数にしておくなど、会社に紐づけ直す作業を早めに始めてください。時間はかかりますが効果は大きいです。
Q. 設備が古く、更新の判断を先送りしています。 A. 更新の要否と時期は、承継の時期と一体で考える論点です。自分の代で投資するのか次の代に委ねるのかで、引き継ぎ方も相手の反応も変わります。先送りするほど選択肢は狭まりますので、早めに整理することをおすすめします。