まず表計算ソフトで始める

いきなりシステムを入れないでください。理由は次のとおりです。

  • 何を集めれば原価が出るかが分かっていない段階では、要件を決められない
  • 配賦の方法を試行錯誤する必要がある
  • 表計算ソフトなら、すぐ始められて、すぐ直せる

表計算で仕組みを作り、運用してみてからシステム化を検討する——この順序が確実です。原価計算を始めるをご覧ください。

システム化を検討すべきタイミング

  • 品目数が多く、更新が追いつかない(100品目以上が目安)
  • 原材料の価格改定が頻繁で、反映が間に合わない
  • 実績データの入力・転記に時間がかかる
  • 担当者しか扱えず、属人化している
  • 月次で回したいが、集計に時間がかかりすぎる

4番目と5番目が、システム化の実質的な理由になることが多いと考えられます。

必要な機能

基本

  • 配合表(レシピ)の管理
  • 原材料の単価管理と、改定履歴
  • 品目別の原価計算
  • 加工費の配賦
  • 実績原価と標準原価の比較

食品工場に必要

  • 歩留まりの反映:配合表どおりでは実態と合わない
  • 包材費の管理:品目ごとに異なる
  • 複数単位への対応:kg と 個数の併用
  • 半製品・中間品の原価:工程が多段階の場合
  • 副産物・端材の扱い:別商品に転用する場合
  • 季節による単価変動:農水産物を原料とする場合

1番目は必須です。歩留まりを反映できないシステムでは、実態と乖離した原価しか出ません。歩留まりとロスの改善をご覧ください。

あると有効

  • 取引先別の採算
  • 物流費の反映
  • センターフィー・販促費の反映
  • シミュレーション(原料が◯%上がったら原価はいくらになるか)

最後の項目は、価格交渉で威力を発揮します。「主原料が10%上がると、原価は◯円上がる」と即座に示せます。価格改定の交渉をご覧ください。

選び方

1. 単独か、生産管理と一体か

原価管理単独生産管理と一体
費用比較的抑えられる高くなる
データ入力別途必要実績から自動
導入期間短い長い
精度入力の精度による実績ベースで高い

実績データを自動で取れる仕組みがあれば、精度が大きく変わります。生産実績の自動収集をご覧ください。

2. 会計システムとの連携

製造原価と会計上の数字が合わないと、信頼できません。試算表の製造原価と、積み上げた原価の合計が照合できるかを確認してください。

3. 更新のしやすさ

  • 原材料の単価を一括で更新できるか
  • 配合を変更したときの反映
  • 過去の原価を保存できるか(推移が見られるか)

原材料の価格が動く局面では、更新のしやすさが決定的です。

4. 出力の形式

  • 品目別、取引先別、期間別に出せるか
  • 表計算ソフトに出力できるか
  • グラフ化できるか

導入の進め方

選定より前と後に、それぞれ時間がかかります。全体では半年から1年を見ておくと無理がありません。

段階やること目安の期間
① 準備品目・原材料コードの整備、配合表の最新化、歩留まりの実測2〜3か月
② 要件の整理表計算で回している仕組みを、必要な機能として書き出す2〜4週間
③ 比較・選定複数社にデモを依頼。自社の品目で試算してもらう1〜2か月
④ 初期設定マスタ登録、配賦基準の設定、既存データの移行1〜3か月
⑤ 並行運用表計算と両方で回し、数字が合うか確認する2〜3か月
⑥ 本運用月次の会議で使う。会計の数字と定期照合——

飛ばされやすいのが⑤です。新しいシステムの数字が正しいかどうかは、既存の方法と突き合わせないと分かりません。並行の期間を取らずに切り替えると、出てきた数字を疑いながら使うことになります。

①に最も時間がかかります。配合表が最新でない、紙でしか存在しない、担当者の頭の中にある。この状態では、どのシステムを選んでも同じ結果になります。

導入前に整えること

  1. 品目コードと原材料コードの整備
  2. 配合表の整備と最新化
  3. 歩留まりの実測
  4. 加工費の配賦基準の決定
  5. 作業時間の記録方法の確立

2番目が最も時間がかかります。配合表が最新でない、紙でしか存在しない、担当者の頭の中にある——こうした状態では、システムに乗せられません。

配賦基準の考え方は加工費の配賦をご覧ください。

費用の目安

  • クラウド型の原価管理:月額数万円〜
  • パッケージ導入:数百万円〜
  • 生産管理と一体:数百万円〜数千万円

IT導入補助金などが使える場合があります。食品製造業が使える補助金の種類をご覧ください。

導入がうまくいかないときの型

デモの品目が自社と違う

標準的なサンプルで見せられると、どれも良く見えます。自社の実際の品目——工程が多段階のもの、歩留まりが低いもの、複数単位を使うもの——で試算してもらってください。ここで差が出ます。

入力が現場の負担になる

原価を出すには実績データが要ります。その入力を現場が担うなら、作業の動線に乗る形でなければ続きません。生産実績を自動で取れる仕組みがあるかどうかで、定着率が変わります。

担当者が1人だけ

導入を主導した人が異動・退職すると、更新が止まります。最初から2人以上が扱える状態にしてください。承継の場面でも、属人化しているシステムは評価されません。

会計と数字が合わない

試算表の製造原価と、積み上げた原価の合計が合わないと、どちらを信じるか分からなくなります。定期的に照合し、差が出る理由を説明できる状態を保ってください。

使い続けるために

  • 更新の担当と頻度を決める
  • 複数人が扱えるようにする
  • 月次の会議で必ず見る
  • 会計の数字と定期的に照合する

3番目が重要です。誰も見ない原価表は、更新されなくなります。

承継の観点

原価が見える会社は、後継者が値決めできる会社です。M&Aでも、買い手が最初に求める資料になります。

システム化されていれば、担当者が代わっても運用が続きます。食品工場の原価管理 完全ガイドをご覧ください。

よくある質問

Q. 品目数が少なければ、システムは不要ですか。 A. 表計算で回せる範囲であれば不要です。判断の目安は、品目数そのものより更新が追いつくかどうかです。原材料の価格改定が頻繁で反映が間に合わない、担当者しか扱えない、といった状態になったら検討の時期です。

Q. 生産管理システムと一体のものを選ぶべきですか。 A. 実績データを自動で取れるぶん精度は上がりますが、費用と導入期間は大きくなります。まず原価管理単独で始め、実績の入力が負担になった段階で一体型を検討する順序でも構いません。

Q. 補助金は使えますか。 A. IT導入に関する制度が対象になる場合があります。ただし公募の時期と要件は年度ごとに変わり、交付決定の前に契約すると対象外になるのが原則です。導入の時期を決める前に、制度の確認を挟んでください。

Q. 承継の場面では、システムがあるほうが評価されますか。 A. システムの有無より、品目別の原価が説明できるかどうかが見られます。ただし、表計算が特定の担当者の手作業で回っている場合は、その人が抜けたときに続かないと判断されます。仕組みとして残っているかが問われます。