出荷先ごとの性質

電炉など需要家へ直接

  • 価格:建値が示され、比較的分かりやすいのです。
  • 量:まとまった量を求められることが多くあります。
  • 品位:受入基準が明確で、外れると減額されます。
  • 決済:条件が安定していることが多くあります。
  • 注意点:稼働状況によって受入が絞られることがあります。

商社・問屋経由

  • 価格:中間のマージンが入るため、直接より低くなる場合があります。
  • 量:少量でも受けてもらえることがあります。
  • 品位:まとめて調整してくれる場合があります。
  • 決済:条件は相手によります。
  • 利点:出荷先の選定や物流を任せられる部分があります。

輸出

  • 価格:海外の需給と為替で動きます。国内より高くなる局面があります。
  • 量:コンテナや船積みの単位でまとまる必要があります。
  • 決済:回収のリスクが国内取引より高くなります。
  • 注意点:相手国の規制変更で止まる可能性があります。

依存度を測る

まず現状を数字にしてください。直近1年の出荷を、先別・品目別に集計します。

確認すべき点は次のとおりです。

  • 上位1社の比率
  • 品目ごとに、選択肢が何社あるか
  • 1社しか出せない品目はないか
  • その1社が受入を止めたら、どうなるか

最後の点を具体的に考えてください。代替先の確保に何日かかるか、その間ヤードは持つか。これが把握できていないなら、リスクが管理されていません。

分散のバランス

分散は保険ですが、コストもかかります。

  • 量が分かれると、1社あたりの単価が下がる場合がある
  • 運搬先が増えると、配車が煩雑になる
  • 受入基準が先ごとに違い、選別の手間が増える
  • 請求と入金の管理が増える

実務的な落ち着きどころとして、主要な品目ごとに「主たる出荷先」と「実際に出したことのある代替先」を1社以上確保するという形があります。

「話をしたことがある」だけでは足りません。実際に少量でも出荷した実績があるかどうかで、緊急時に使えるかが変わります。年に数回は代替先へも出す、という運用をお勧めします。

切り替えの判断

他社のほうが高いという話は常にあります。切り替えるかどうかの判断材料を挙げます。

  1. 手取りで比較する:単価だけでなく、運搬費、減額の基準、決済までの期間を含めます。
  2. 継続性を確認する:一時的に高いだけかもしれません。
  3. 受入の安定性:忙しいときに断られないか。
  4. 決済の確実性:与信の確認。
  5. 既存先との関係:全量を移すのか、一部か。

1番目が最も見落とされます。単価が高くても、運搬距離が遠く減額が厳しければ、手取りは下がります。トンあたりの最終手取りで比べてください。

「手取りで比べる」の計算の形

単価表を並べても比較になりません。次の形で、トンあたりの最終手取りを出してください。

最終手取り = 建値 − 減額の見込み − 運搬費 − 待ち時間の費用

項目A社(電炉直納)B社(商社)C社(輸出)
建値(トンあたり)記入欄記入欄記入欄
減額の見込み記入欄記入欄記入欄
運搬費(往復・帰り便の有無)記入欄記入欄記入欄
待ち時間(1回あたり)記入欄記入欄記入欄
待ち時間の費用換算記入欄記入欄記入欄
決済までの期間記入欄記入欄記入欄
最終手取り(トンあたり)記入欄記入欄記入欄

埋めてみると、順位が入れ替わることがあります。建値がいちばん高い先が、運搬距離と待ち時間で3番目になる、という形です。

4行目と5行目を必ず入れてください。待ち時間は運転手の人件費です。1回あたり1時間待たされる先は、その時間ぶんの費用が乗っています。車両が1日に何回転できるかが変われば、実質の運搬費も変わります。

決済までの期間は金額には表れませんが、資金繰りに効きます。同じ手取りなら、回収が早い先のほうが手元の資金は楽になります。相場が上がっている局面では、この差が大きくなります。

与信と代金回収

相場が大きく動く取引では、代金の金額も振れます。回収できなければ、その分がそのまま損失です。

確認すべき点を挙げます。

  • 取引先ごとに、未回収の残高がどれだけあるか
  • 決済までの期間はどれくらいか
  • 相場が上がった局面で、残高が膨らんでいないか
  • 支払いの遅れが出ていないか

3番目に注意してください。相場が上がると、同じ量でも売掛金の金額が増えます。リスクの絶対額が知らないうちに拡大しています。

対策としては、取引先ごとに上限を決める、決済期間を短くする交渉をする、新規先は少量から始める、といった方法があります。

承継の場面での見え方

買い手は出荷先の構成を確認します。見られるのは次の点です。

  • 特定の1社に依存していないか
  • その関係が社長個人に紐づいていないか
  • 代替先が確保されているか
  • 取引条件が書面になっているか
  • 未回収が発生していないか

依存度が高い場合、それは価値ではなくリスクとして計算されます。「長年の付き合いで安定している」という説明は、買い手には「その1社が離れたら終わる」と読まれます。

分散を進めることは、日々の経営の安定であると同時に、承継の準備でもあります。

出荷先との条件を書面にする

長年の取引が口約束で続いていることがあります。次の点は書面にしておいてください。

  • 価格の決め方(建値の基準、改定の時期)
  • 受入の基準(品位、サイズ、混入の許容範囲)
  • 減額の基準(どういう場合にいくら引かれるか)
  • 計量の方法(どちらの計量を使うか)
  • 決済の条件(締めと支払いの時期)

3番目と4番目でもめることが多くあります。「思っていた金額と違う」が繰り返されるなら、基準が共有されていません。

書面があれば、担当者が代わっても条件が維持されます。承継の場面でも、買い手に条件を示せます。

物流をあわせて考える

出荷先の選択は、運搬とセットで考える必要があります。

  • 距離が近い先は、単価が低くても手取りが大きい場合がある
  • 帰り便を確保できる先は、実質の運賃が下がる
  • 受入の待ち時間が長い先は、車両の回転が落ちる
  • 大型車で入れる先か、制約があるか

3番目が見落とされます。待ち時間は運転手の人件費です。1回あたり1時間待たされる先は、その分の費用が乗っています。

単価表だけでなく、実際の手取りと車両の回転数で比べてください。

よくある質問

Q. 出荷先を分散すると単価が下がります。それでも分けるべきですか。 A. 全量を分ける必要はありません。主たる出荷先を決めたうえで、代替先へ年に数回は少量でも出す形が実務的な落としどころです。単価の差は保険料と考えてください。受入を止められてから代替先を探すと、ヤードが埋まって処理そのものが止まります。

Q. 代替先は「話をしたことがある」だけでは足りませんか。 A. 足りません。実際に出荷した実績がないと、緊急時に受け入れてもらえるかが分かりません。受入基準に自社の品位が合うか、計量の方法が違わないか、決済の条件はどうか。少量でも一度通してみて初めて、使える代替先になります。

Q. 輸出は国内より高いと聞きますが、比重を上げるべきですか。 A. 局面によります。ただし、相手国の規制変更で止まる可能性と、代金回収のリスクが国内取引より高い点を織り込んでください。比率を上げるほど、その2つの影響も大きくなります。仕向地と品目の内訳を把握し、止まったときにどこへ出すかを決めておいてください。

Q. 承継のとき、出荷先の構成はどう見られますか。 A. 1社への依存が高いと、価値ではなくリスクとして計算されます。「長年の付き合いで安定している」という説明は、買い手には「その1社が離れたら終わる」と読まれます。取引条件が書面になっていること、代替先の実績があることが、そのまま評価につながります。

※ 取引条件や与信の判断は個別の事情によって異なります。新たな取引を始める際は相手方の確認を十分に行ってください。