個人経営の解体業を譲るとき
個人事業には株式がありません。そのため会社ごと譲ることができず、事業譲渡の形をとることになります。ヤード、重機、在庫、従業員との雇用契約を、ひとつずつ譲受側へ移していく手続きです。
この場合、解体業や破砕業の許可、引取業・フロン類回収業の登録は、譲受側であらためて取得する必要があります。立地の条件や設備の要件を満たしたうえで審査を受けるため、相応の期間がかかります。譲渡日はこのスケジュールに合わせて設計します。
個人経営の解体業の売却では、ヤードの土地も個人名義であることが多く、事業と不動産をまとめて譲るのか、不動産は残して賃貸するのかという選択も生じます。
有限会社の解体業を譲るとき
有限会社は新規設立ができなくなりましたが、既存の会社は「特例有限会社」として存続しています。株式会社と同様に持分(株式)があるため、有限会社の解体業の売却も株式譲渡で行えます。
この場合、許可は法人に残るため取り直しは不要です。手続きの面では最も現実的な選択肢になります。
ただし、株主名簿が整っていない、設立時の名義株がそのまま残っている、相続で持分が分散したまま把握できていない——こうした状態だと交渉が止まります。過去の株式移動を裏付ける書類を探し、必要なら名義人の確認を進めておいてください。
株主名簿と名義株を整える手順
有限会社や古い株式会社では、持分の状態が不明確なまま何十年も経っていることがあります。交渉が止まる原因になるため、先に整えます。
- 現在の名簿を確認する:株主名簿があるか、最後に更新されたのはいつか。
- 設立時からの経緯を追う:定款、登記の履歴、過去の議事録。設立時に名前だけ借りた出資者がいないかを確認します。
- 移動の裏付けを探す:譲渡の契約書、代金のやり取りの記録、贈与や相続の資料。
- 相続で分散した分を把握する:亡くなった株主の持分が、誰にどう引き継がれたのか。連絡が取れるかも確認します。
- 買い集めや整理の方針を決める:少数の持分をどう扱うか。時間がかかるため、早い段階で着手します。
特に②と④は時間がかかります。買い手は、持分が確実に集められることを前提に条件を出します。集められない可能性が残っていると、それ自体が交渉の材料になります。
会社譲渡という言い方について
ご相談のなかでは「会社譲渡」という言葉もよく使われます。解体業の会社譲渡といった場合、会社そのものを譲る意味で用いられており、実務上は株式譲渡(持分譲渡)を指すことがほとんどです。
一方、事業だけを切り出す事業譲渡とは、許可・契約・税務の扱いがまったく異なります。「会社ごと譲りたいのか」「事業だけを譲りたいのか」をはっきりさせておくと、話が早く進みます。
税務上の違いを押さえる
株式譲渡と事業譲渡では、税金のかかり方が大きく異なります。
株式譲渡では、株主である個人に譲渡所得として課税されます。分離課税で税率は約20%です。一方、事業譲渡では対価を受け取るのは会社であり、法人税が課されます。そのうえで経営者個人が資金を受け取るには、役員退職金や配当といった形をとることになり、二段階で課税されます。
個人事業の譲渡では、資産の種類ごとに課税され、消費税の扱いも生じます。重機や在庫の譲渡には消費税がかかる点にも注意が必要です。手取り額に直結する部分ですので、スキームを決める前に税理士を交えて試算しておいてください。
個人名義のヤードをどう扱うか
ヤードの土地が経営者個人の名義になっている場合、選択肢は大きく2つです。どちらを選ぶかで、手取りとその後の関わり方が変わります。
- 事業と一緒に譲る:買い手は土地を確保でき、事業の継続性が高く評価されます。売り手は対価をまとめて受け取れますが、その後の地代収入はなくなります。
- 土地は残して賃貸する:引退後も地代が入ります。ただし買い手にとっては、契約の期間と条件が事業の前提になるため、賃貸借の条件をどこまで固められるかが交渉の対象になります。
賃貸を選ぶ場合、買い手が気にするのは、期間、更新の条件、地代の改定、そして相続が起きたときの扱いです。契約が短期であったり、相続後の承継が不透明であったりすると、その不確実性が価格に反映されます。長期の契約にしておくほど、事業側の評価は安定します。
あわせて確認したいのが、地代の水準です。相場と大きく離れている場合、買い手は市場水準に置き直して収益力を評価します。地代が低すぎれば実際の利益は下がり、高すぎれば逆になります。どちらの場合も、置き直した後の数字で見られることを前提に考えてください。
小規模でも譲渡先は見つかるのか
「うちのような小さなヤードに買い手がつくのか」というご質問をよくいただきます。結論から言えば、規模だけで判断されるわけではありません。
買い手が求めているのは、許可、立地、そして仕入れルートです。従業員が数名でも、これらが揃っていれば引き継ぎ手はあります。特に新規参入を狙う企業にとっては、規模より許可と立地が重要になります。
まずは現状の見立てを知るところから始めてみてください。決算書3期分と許可関係の書類があれば、無料でご案内できます。
よくある質問
Q. 個人事業のまま譲る場合、従業員はどうなりますか。 A. 事業譲渡では雇用関係が自動的には移らないため、従業員一人ひとりの同意を得て譲受側と契約し直すのが原則です。待遇の条件を先に固めてから伝えないと、不安から離職につながります。伝える順序と内容を、譲受側と事前にすり合わせておいてください。
Q. 有限会社のままでも譲渡に不利になりませんか。 A. 不利にはなりません。特例有限会社にも持分があるため株式譲渡で進められ、許可も法人に残ります。論点になるのは会社の形式ではなく、株主名簿が整っているか、名義株や分散した持分が残っていないかです。
Q. PMIとは何ですか。 A. Post Merger Integration の略で、M&A成立後に両社の体制をまとめていく工程を指します。解体業では入庫の判断基準、部品の在庫の持ち方、ヤードの運用ルール、産業廃棄物の管理方法の違いが表に出やすく、ここを詰めずに進めると現場が混乱します。
Q. 成約したら終わりではないのですか。 A. 成約してからのほうが実務は多くなります。許可や登録の名義、取引先への挨拶、従業員への説明、システムと在庫データの引き継ぎが続きます。譲る側も一定期間は関与するのが通例で、その期間と関わり方は契約で決めておきます。
Q. 従業員の待遇はどうなりますか。 A. 雇用の維持は交渉の重要な条件になります。労働条件を下げない、一定期間は現行の体系を保つといった取り決めを契約に入れられます。譲る側が早めに希望を伝えるほど、配慮した設計にしやすくなります。